言語認知科学講座講師 白井智美先生
2026年4月に言語認知科学講座に着任しました、白井智美と申します。ここでは、自己紹介に代えて、私の研究がどのような関心から始まり、現在の研究につながっているのかをお話ししたいと思います。
振り返ってみると、研究生活においては、いつの時期も、良書と良き師との出会いに恵まれてきたように思います。修士課程に進むころ、言語学者・言語哲学者Elisabeth Leiss教授の著作に出会いました。『Sprachphilosophie(言語哲学)』には一貫して「言語は何を表象するのか」という問いがあります。言語と世界と思考の関係をRepräsentation(表象)という観点から整理し直そうとする研究です。ここで言語は、思考の表現手段ではなく、人間が世界をどのように構造化するかという認識手段として捉えられています。同じ立場から、『Artikel und Aspekt(冠詞とアスペクト)』では、ドイツ語の冠詞とロシア語のアスペクトについて、形式的には異なる文法カテゴリーが、文構造全体を視野に入れると共通の認識的機能を担いうることが論じられています。当時の私は、日本語の「来る」とドイツ語の kommen の表現差に関心を持っていました。異なる形式の中に共通する機能を見出そうとする方法論は、「事態の捉え方の違い」と説明されることの多いこうした差異の内実を、一歩踏み込んで考える手がかりになるように思いました。そこでLeiss教授の指導のもと、ミュンヘン大学の言語理論と応用言語学専攻で博士論文を執筆しました。その後、空間表現そのものから、言語が空間的な定位構造を利用して意味を構成する仕組みへと関心を広げました。私にとってそれは、空間表現の研究であると同時に、「言語を理解するとはどういうことか」を考える試みでもありました。
ちょうどこのころ、社会学・障害学を専門とする研究者との出会いがあり、社会学者・立岩真也の『人間の条件 そんなものない』という本を譲り受けました。この出会いは、自分がこれまで追い求めてきた「言語は何を表象するのか」「言語を理解するとはどういうことか」という問いを、社会との関わりの中で深める契機となりました。また、言語理解の研究が、理解に困難を抱える人々への支援や、情報をより分かりやすく伝える方法の検討にもつながりうるのではないかと考えるようになりました。現在は、その関心のもと、比喩理解の研究に取り組んでいます。比喩表現がどのように理解されるのか、またどのような場合に困難が生じるのかを認知言語学の立場から研究しています。
人にも書物にも誠実に向き合いながら、研究と教育に取り組んでいきたいと思います。みなさんが研究生活において、自分の問いを深められるような人や本との出会いに恵まれることを願っています。どうぞよろしくお願いします。




