新任教員

過去新任教員 2023年度


2025年度に人文学研究科言語文化学専攻には、新たに5名の専任の先生方が着任されました。ご経歴とご専門について紹介していただいています。

コミュニケーション論講座講師 覚知頌春先生

 覚知頌春(かくちのぶはる)と申します。札幌出身で、博士課程まで北海道大学に通っていました。専門はドイツ語学で、対象としているのは低地ドイツ語というドイツ語の地域変種です。大阪大学大学院人文学研究科には、2025年4月に着任し、主にドイツ語を教えています。

 私の研究している低地ドイツ語は、北ドイツで話されるドイツ語の地域変種です。ドイツは一般に、北から南に行くにしたがって標高が高くなります。そのため、北ドイツには起伏の少ない平地が広がっており、「低地」の名はそこから来ています。低地ドイツ語と聞くと単一の言葉があるかのように聞こえますが、標準語は存在せず、地域ごとに異なる低地ドイツ語が話されているのが現状です。言語学的な特徴としては、第二次子音推移という、今日の標準ドイツ語がその影響を受けている音韻変化の影響を受けてない点などが挙げられます。その点で、低地ドイツ語には、同じ西ゲルマン諸語に属する英語と(少なくとも形の上で)似ている単語が多くあり、これは、私がこの言葉を詳しく勉強してみたいと思ったきっかけにもなりました。「言葉同士が似ている」という観察は、「言葉同士が似ているとはどういうことか」「何がどの程度似ているということであり、何がどの程度異なるということなのか」といったさらなる疑問をもたらし、大学院時代は、低地ドイツ語の研究を中心に据えつつも、多数のゲルマン語に視野を広げることを試み、上記の疑問に取り組むことができました。

 大学院時代とポスドク時代、私はドイツのキールという町に計3年間、滞在していました。キールは、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州というドイツ最北の州の中心都市です。同州は、低地ドイツ語が話される地域であり、私は滞在中、多くの話者の方々とお会いし、調査を行う機会を得ることができました。また、北海とバルト海に挟まれ、デンマークと国境を接するシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州は、古くから多くの言語が話される地域で、ゲルマン語に限っても、標準ドイツ語、低地ドイツ語のほかに、北フリジア語とデンマーク語が話されています。特に、北フリジア語は、同州北西部の北フリースラント郡とヘルゴラント島で話される少数言語であり、それぞれにユニークな特徴を持つ約10個の変種を擁し、話者による言語擁護も盛んにおこなわれています。キール大学のフリジア語学講座の講義に加えてもらい、北フリジア語の持つ魅力と奥深さに触れることができたのは幸運でした。

 大阪大学でも、学生のみなさまと言語やその文化について一緒に研究できれば幸いに思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

コミュニケーション論講座講師 櫻間瑞希先生

 2025年4月にコミュニケーション論講座に着任いたしました、櫻間瑞希(さくらま・みずき)と申します。言語社会学と文化人類学の狭間で、タタール・ディアスポラのことばと社会と文化の研究をしています。 わたしの言語的背景はちょっぴり複雑です。あえて個別の言語名称でカテゴライズするならば、茨城南部のことばを基盤に、時にロシア語、英語、タタール語が混ざり合う環境で育ちました。これらの言語の境界がようやく意識されるようになったのは10歳前後だったように思います。

 どのことばもわたしをわたしたらしめる大切な要素でありながら、しかしどれも完全には我がものにはならないもどかしさをいまだに抱き続けてもいます。なぜなら「敬語が正しく使えない」とか「文法が正しくない」とか「発音が正しくない」といったことばを投げかけられ、やがて内面化してもきたからです。振り返ってみれば、わたしはこの「正しい/正しくない」にずいぶんと振り回されてきました。しかし「正しい」とはいったいなんなのでしょうか。この問いはわたしの研究にも、わたしの人生にもずっと向けられ続けています。 悩み深く多感な学部時代を迎えたわたしは、そのこたえを求めて人文学分野の授業に向かいました。そしてやがて出会ったのが文化人類学と社会言語学でした。

 それはちょうど、社会言語学の講義で「ことばとアイデンティティ」が扱われた回でした。言語使用と社会階層が密接に結びついていることが紹介されるなかで、わたしは思わず息を呑みました。これまでに「正しくない」と否定されたわたしのことばは、社会的文脈や他者が想定するわたしの属性において「正しくない」と判断されたために、否定的な反応を引き起こしたのだと。自分のことばに対して長年感じてきた違和感やもどかしさは、社会のマジョリティによって定義される「あたりまえ」の言語規範の中で生まれたものだったのです。 文化人類学の講義にも出てみるといいと勧められて足を運んでみれば、そこでは多言語社会を生きる人々の日々の営みが紹介されていました。ここでもわたしは再び雷に打たれたような気持ちになりました。わたしのような「ごちゃまぜのことば」の世界を生きる人々はけっして特異な存在ではなく、日本においても程度の差こそあれ、誰もがそうした日常を生きているという事実に。こうした気づきが、ことばと社会、文化、アイデンティティ、エスニシティへの強い関心へと発展していきました。

 長い学生時代のあいだに社会言語学や文化人類学の視座と知識を身につけながら、フィールド調査を通じてさまざまなことばを学び、人々と出会い、やがて言語政策や移民政策にも視野を広げていきました。とりわけ中央アジア諸国のエスニック・マイノリティ、なかでも「タタール人」のことばと文化に関心を向け続けています。

 独立国家を持たないタタール人は、どこにあってもマイノリティです。かれらのことば、暮らし、文化、そして自己意識は地域によっても多様です。そうした状況では「タタール人らしさ」とは何かが常に議論の的となります。言い換えれば、「正しく」タタール人らしくあるということがいかなることなのかが常に問われているということでもあります。

 中央アジア諸国では、民族とことばの不可分性が前提とされる傾向があり、とりわけ民族のことばを失った人々は「タタール人らしくない」として議論から取り残されてもきました。そこで近年では、民族のことばを失ってもなおタタール人としての意識を持ち続ける人々が、何を自身の民族的アイデンティティのよりどころとしているのかにも注目しています。同時に、タタール人であることの「正しさ」をめぐる言説がいかなるもので、それはどのように作られたり、変わったりするのかにも関心を持っています。

 大阪での新たな暮らしもわたしの研究関心と重なる部分があります。東日本の、それも茨城のことばを話すわたしは、ここでは時に言語的他者性を感じることがあります。「はー ここはオーサカ、おれはどうなっちゃーんだべなあ。なーんかおもしーこど言わねえどだめなんだべか、はー どうすっぺ」(注1)とロシア語の授業中に郷里のことばで呟いてみれば、主に西日本出身の学生たちが「ロシア語のほうがわかる」とすこし申し訳なさそうに言うのです。あゝわが故郷は遠くなりにけり、わたしは異なる言語文化圏に来たのだと実感するのでした。 茨城県南部の小さな村で育ったわたしにとって、大阪での日々の生活は新たな文化体験に満ちています。しかしだんだんと大阪のアクセントやリズムがわたしのなかに深く染み込んでもくるなかで、郷里のことばが遠くなりつつあるのを感じています。いつかわたしがあたりまえに大阪的なことばを話すようになったころ、茨城人であろうとするわたしはいったい何によりどころを求めるのだろう――。大阪での暮らしに慣れつつあるなかで、ふとそんなことも考えずにはいられない今日この頃です。

 注1:「あゝここは大阪、わたしはいったいどないなってしまうのやろか。なんかおもろいことでも言わなあかんのやろか。あゝどないしよ」

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座講師 葉晨傑先生

 2025年4月より、言語文化学専攻 理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました葉晨傑(よう しんけつ)と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 学部時代は北京外国語大学で韓国・朝鮮語を専攻し、言語そのものへの関心を深めるきっかけとなりました。当時の授業は主に言語運用能力の向上を目的としており、言語学という分野に触れる機会は限られていました。学部3年生の秋学期に唯一の言語学の授業が開講されましたが、私はその時期に韓国への交換留学を行っていたため、受講することはできませんでした。

 韓国での留学経験を経て、異なる文化的・学術的背景を持つ環境で言語研究を進めたいと考え、日本への留学を決意しました。京都大学大学院文学研究科では、まず研究生として学び、その後、言語学専修の修士課程に進学しました。修士課程では韓国・朝鮮語の形態論、特に派生接辞と屈折接辞の区別に関する研究に取り組みました。

 博士後期課程では、形態論に加え、形態論と統語論のインターフェースに関心を持つようになり、生成文法の枠組みを用いて言語現象を理論的に説明するアプローチに取り組んできました。博士論文では、分散形態論(Distributed Morphology)の枠組みに基づき、韓国・朝鮮語において品詞を変化させる機能を持つ複数の接辞の分析を行いました。

 また、博士課程在学中からは韓国・朝鮮語以外の言語にも研究対象を広げています。私は中国の浙江省の出身で、共通語である普通話に加え、呉語も母語として習得しています。呉語は研究の蓄積が比較的少なく、地元の若い世代の間でも使用頻度が低下している現状をふまえ、母語話者の立場からその記述と保存に努めています。

 さらに、偶然の機会に恵まれ、ツングース諸語に属するソロン語の母語話者への調査を実施することができ、この言語に関する記述的な研究も行っています。今後は、韓国・朝鮮語に加えて、呉語やソロン語、さらには未記述または記述の少ない他の言語についてもフィールドワークを重ね、形態論や統語論を中心に、さまざまな分野で研究を進めていきたいと考えています。

 言語というものには無限の多様性があり、それぞれの言語には独自の魅力が詰まっています。私は、研究を通じて言語学の新たな側面を発見し、共有することを楽しみにしています。興味を持っている方々と共に、言語に関する議論を深め、新しい知見を得ることができることを願っています。

 言語学に関する質問や興味があれば、どうぞ気軽に声をかけてください。私自身、研究を進める中で多くの方々と交流し、学び合うことを大切にしています。今後とも、一緒に学び合いながら成長していけることを楽しみにしています。

マルチリンガル教育センター 特任助教 新原由希恵先生

 2025 年 4 月にマルチリンガル教育センターに着任しました新原由希恵と申します。専門は応用言語学、学習者のモチベーション研究です。幼少期から海外で過ごしていたこともあり、多言語・多文化に自然と興味を持ち上智大学の英語学科では言語の授業として中国語とアメリカ手話の授業を受講していました。また理系学部の英文会計や科学技術英語の授業を受講するなど少しでも言語に関連した授業でも学んでいました。総合大学であれば他学科の聴講ができるので、空きコマがある方にはオススメの時間の使い方です!学部時代は男子軟式野球サークル、大学院時代は乗馬をしていました。しっかりとリフレッシュしながら学び続けることが大切だと思っております。これからも楽しみながら学びを深め、研究に励みたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。


 My main research areas are Foreign Language Education and Applied Linguistics, with a focus on motivation. I became interested in motivation because I have always been highly motivated when it comes to language learning. My initial research focused on the English learning methods of Japanese elementary school children. I grew up in a multicultural environment in the US and the UK due to my father’s job. During that time, I learned Spanish at a summer school and French as a compulsory subject (a second language), which sparked my passion for language learning.

 While studying English Language and Studies at Sophia University, I also began learning American Sign Language and Chinese. Although I haven’t yet mastered these languages, I remain eager to continue learning new languages throughout my life. Currently, I’m studying Chinese and Korean on Duolingo, and I also aim to learn Portuguese, Russian, and Malay.

 When it comes to teaching, I really enjoy creating classes that encourage a lot of communication, even in reading or writing lessons. I used to play team sports like football, baseball, and netball, where teamwork and frequent discussions were key to achieving our goals (sometimes, we just chatted, honestly). Those experiences taught me that positive, shared moments are essential for motivation, whether it’s in a game, learning a new language, or exploring new topics. If you join my class, even if you’re not interested in language learning or if you’ve struggled with studying in the past, I’ll greet you with a big smile and do my best to make the class enjoyable and worthwhile. I want you to leave feeling that the class was interesting and meaningful in some way.

 Enjoy your school life and learning journey as much as you can—I’d be happy to support you and help make your experiences a bit more meaningful and fun. ;)

マルチリンガル教育センター 特任准教授 孫樹喬先生

 2025年4月にマルチリンガル教育センターの特任准教授として着任いたしました孫樹喬と申します。専門は中国語学、日中対照言語学です。このたび、全学共通教育における中国語教育に携わる機会をいただき、微力ながらも貢献できますことを大変光栄に思っております。

 私は中国の東北部で生まれ育ち、上海にある同済大学に進学して日本語を学び始めました。言語に興味を持つようになったきっかけは、南方出身の同級生たちの話す多様な方言を聞いても、その意味が全く分からなかったことによる“カルチャーショック”でした。大学では中国語とは発音も文法も大きく異なる日本語を学ぶ中で、言語や文化の多様性に驚きと発見を重ねる日々でした。修士論文の執筆を通じて、日本語と中国語の比較研究にますます魅了され、より深く研究を進めたいとの思いから、神戸市外国語大学の博士課程に進学いたしました。

 私の研究は、主に文法や表現に関する日中対照研究です。中でも、話し手の主観的な態度を表す表現に長く関心を持ち、とりわけ話し言葉における「意志」を表す表現について、日中の言語を比較しながら研究を進めてまいりました。これらの研究を通じて、両言語における形式・意味・機能の特徴を明らかにし、意志表現の全体像を捉えたうえで、共通点や相違点を探ることを目指してきました。現在は、日本語との対照を踏まえつつ、意志表現と未来テンスとの関係についても取り組んでおります。今後は、主観性を表すさまざまな文法形式、特に日本語ではうまく説明しきれない中国語の助動詞や感情動詞などについても焦点を当てていきたいと考えています。主観性表現が豊かに発達しているとされる日本語と比較することで、中国語における主観性の特質やそのあり方を明らかにしていくことを、長期的な研究の目標として掲げております。

 また、教育の現場においては、学習者が主観性を表す表現、たとえば助動詞や語気助詞、感情副詞などの理解や運用に困難を感じている様子をしばしば目にします。こうした課題を踏まえ、研究成果を生かした効果的な教授法や教材の開発にも取り組み、中国語教育に実践的に貢献していきたいと考えております。

 私自身、日本語学習を通じて、外国語を学ぶことは単に言語そのものを習得するだけでなく、その背後にある文化や歴史、価値観への理解を深める旅でもあると実感しています。現在、第2外国語教育と国際理解教育の授業を担当させていただいておりますが、受講される皆さんと共にことばを学びながら、中国語と日本語の表現の違いや共通点に目を向け、言語を通して異文化への理解を少しずつ深めていけたらと願っております。

 大阪大学にご縁をいただいたことは、1年前には想像もしていなかったことであり、この貴重な機会に心から感謝しております。これからも、多くのすばらしい言語研究者の皆さまとともに学び、成長してまいりたいと存じます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。



2024年度に人文学研究科言語文化学専攻には、新たに8名の専任の先生方が着任されました。ご経歴とご専門について紹介していただいています。

コミュニケーション論講座講師 井坂ゆかり先生

 2024年4月に言語文化学専攻コミュニケーション論講座に着任しました、井坂ゆかりと申します。

 専門はドイツ語学です。東京外国語大学外国語学部のドイツ語専攻に入学し、4年間ドイツ語を学んだあと、同大学大学院にて、現代ドイツ語の人称代名詞の用法について研究し、修士号、博士号を取得しました。院生時代に1年間、ドイツのマールブルクに留学もしました。ドイツ語は研究対象であると同時に、自分にとって大切な人生の一部でもあります。学部の全学共通教育では、ドイツ語の授業を担当しています。授業で一通り基礎語彙と文法を学習したら、簡単な日常会話ができ、辞書片手に短い文章が読めるようになります。せっかくなのでドイツ語圏に留学してみるのも良いと思いますし、留学は難しいという人も、ぜひ長期休みや卒業旅行の機会に現地に遊びに行ってみてほしいです。ほかのことが忙しくなると、ドイツ語自体はいずれ忘れてしまうかもしれませんが、ことばについて気付きを得たり、勉強仲間と話し合ってみたり、語学の授業が実りある学びの場のひとつであれば幸いです。

 私は子供の頃、読書が趣味だったので、ことばに対する興味は昔から強かったように思います。大学入学後、言語学関連の授業を中心に履修してからは、すっかり言語の分析の虜になってしまいました。空き時間に図書館で言語学関連の入門書を読み漁り、学部のゼミ選択でドイツ語学のゼミを志望しました。好奇心とやる気を頼りに、先生方、先輩方に温かく見守っていただきながら勉強を続け、駆け出しの研究者になりました。 振り返って、大学・大学院での勉強期間は、自分にとって意味のあるものを見つけ、それについて突き詰めて考えることのできる貴重な時間でした。大学生活を送るみなさんには、ぜひご自身の興味の赴くまま、たくさんの知識に触れてみてほしいです。

 言語を研究する手法は色々ありますが、私はできるだけ実例分析を中心に行うようにしています。私たちが何を言語化し、構造化し、話題としているのか、実例に目を通していると、人と人とがコミュニケーションをとる際、何を重要視しているのかが浮かび上がってきます。大阪大学大学院では、2025年度から語用論研究の授業を担当予定です。みなさんとお会いするのを楽しみにしています。

第二言語教育学講座講師 Kim Miso先生

 2024年10月に着任し、言語文化学専攻第二言語教育学講座・英語部会に所属しております。私は言語、文化、社会、権力の交差点を旅する応用言語学研究者です。韓国で生まれ、多文化家庭で育ち、アメリカで博士号を取得後、2020年から日本で英語教育に携わってきました。現在は香港出身の配偶者と日本語でコミュニケーションを取る韓国人として生活しています。

 常に多言語・多文化が交錯する環境で過ごしてきた経験から、言語と社会、文化、権力、アイデンティティの結びつきに強い関心を持つようになりました。修士課程では多文化家庭の学生(韓国で移民背景を持つ生徒を指す用語)の言語学習について、博士課程では就職活動生の英語学習に焦点を当て、学習者のアイデンティティと言語の関係、また英語と権力の関係に対する学習者の認識と対処方法について研究を行ってきました。

 現在は、トランスランゲージングと多様性を活用した英語教育、および第二言語教師のアイデンティティに関する研究を進めております。トランスランゲージングは、言語能力やコミュニケーション戦略、経験、態度、異文化理解などを含むコミュニケーション・レパートリーの拡充を目指とします。単なる言語運用能力の向上にとどまらず、世界中の多様な人々との出会いにおいて、自身のレパートリーを効果的に活用し、相手を理解し尊重し合えるコミュニケーションを実現するための英語教育方法の開発に取り組んでいます。

 また、言語教師のアイデンティティは教育実践と密接に結びついています。教材の選択、例示の方法、学生とのやりとりなど、すべては教師自身が築き上げてきたアイデンティティを反映しています。この観点から、協同的オートエスノグラフィーの手法を用いて、教員のアイデンティティと教育実践に関する研究を展開しています。

 東京から大阪への移住後、大阪と大阪大学での新しい環境に馴染みながら、充実した日々を送っています。授業、研究室作り、関西弁の習得など、日々新たな発見と学びの連続です。今後も人文学研究科の皆様とともに、研究と教育に情熱を持って取り組んでまいりたいと思います。

I am an applied linguist exploring the intersections of language, culture, society, and power. I was born and raised in Daegu, South Korea and moved to Seoul for my college studies. In Seoul, I immediately realized that I had to correct my Kyeongsang dialect, because a girl speaking the dialect in Seoul was singled out for being ‘cute’. Giving up my mother tongue, I quickly learned to speak Seoul dialect and invested in speaking English, believing that it would take me somewhere. During my junior year, I came across a research paper investigating how motivation, identity, and gender relate to second language learning, which led me to study applied linguistics in my master’s and doctoral studies.

I have lived through intersections of language, culture, society, and power; so did my research and writing. I stepped into this career exploring Damunhwa students’ (directly translated as multicultural students, but meaning students with migrant backgrounds in Korea) language learning and identities, just because I also grew up in such a family and struggled with establishing my identity in my teenager period. During my Ph.D., I was interested in how language and language competence get exchanged for symbolic or material profit. My dissertation delves into how Korean jobseekers navigate the social pressure to speak fluent English, and what resources they use to improve their English skills for job market preparation. After my arrival in Japan in 2020, I found myself struggling with negotiating my teacher identity and teaching English with awareness of diversity here, both of which evolved into my current research topics. Recently, I am writing about how to promote translanguaging for social justice in language classrooms and how language teachers’ transnational identities and lived experiences shape their pedagogy.

Besides research and teaching, I love to read, write, eat, and travel. My love for reading and writing led me to publish two essay books on language learning in Korean, and my dream is to publish or translate the books in Japanese as well. I love eating and traveling around, so I look forward to exploring great dessert shops and travel destinations in Kansai.

言語認知科学講座准教授 木本幸憲先生

 初めまして、2024年10月から人文学研究科言語文化学専攻でお世話になることになりました、木本幸憲と申します。私は、フィールドワークを基盤とした言語研究を中心に行っています。私の調査地はフィリピンで、ルソン島の北部で話されているアルタ語(Arta)と、その近隣で話されているカシグラン・アグタ語(Casiguran Agta)、ブッカロット語/イロンゴット語(Bugkaloto/Ilongot)などを研究しています。

 フィールド調査の魅力の一つが、言語を多面的に考えることができる点です。例えば、ある言語がどのような地域でどのような人々によって用いられているかを知ることは、言語調査の第一歩ですが、調査の第一歩は社会言語学を実践する必要があります。また文法現象にしても、その名詞はどのような派生形が見られるか、格標識のパターンはどうなっているか、時制・アスペクト・モダリティはどのように表されるかなど、やることは盛りだくさんです。そして今も分からないことだらけです。

 このような研究をしている私ですが、英語学、認知言語学からスタートし、対照研究、言語類型論、フィールド言語学とスコープを広げていきました。私の根本的な興味は、言語が認知や言語使用とどう相互作用しているのか、そして社会や文化と関わり合っているのかを探ることにあります。したがいまして、言語認知科学講座に着任できたことは素敵な縁だと感じると同時に、多くの素晴らしい言語研究者とともに仕事ができることを大変うれしく思います。研究指導の上でも、さまざまなバックグラウンドを持った院生さんに出会い、多様な研究に触れられることを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座助教 黄 晨雯先生

 2024年4月に言語文化学専攻理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました黄と申します。着任後半年が過ぎましたが、改めてよろしくお願いいたします。専門はデジタルヒューマニティーズやコーパス言語学などです。

 学部時代は上海師範大学で日本語を専攻し、日本文化、特に日本のサブカルチャーに強い関心を持ち、日本への留学を志しました。大学卒業後、日本語学校を経て、大阪大学大学院に進学することができました。当初は第二言語教育分野を中心に研究を進める方針でしたが、入学後にコーパス言語学や自然言語処理の授業でプログラミングとテキストの量的分析方法を学ぶ機会があり、テキストマイニングや機械学習に関心を持ち始め、人文情報学の研究に取り組むようになりました。

 これまでに、トピックモデルという機械学習手法を用いて様々なテキスト分析を行ってきました。たとえば、1940年代に活躍した中国推理小説作家の程小青と、21世紀の著名なミステリー作家3名の作品を対象にLDAトピックモデルを適用し、時代と共に変化するミステリー要素の違いを検討しました。この分析は、作品に潜在するトピックの違いや変化を客観的に捉えるための有効な手法であることを示しています。また、博士論文では、日本のウェブ小説のタイトル、あらすじ、本文から成るビッグデータを自然言語処理の技法で分析し、ウェブ小説のトレンドを解明することに成功しました。遠読とミクロな分析を結びつけ、従来の質的分析に比べ、より高い客観性を持つ解釈を提供しています。最近は新しい大規模言語モデルを適用し、新たな研究方向を模索しています。

 2022年に博士を取得しましたが、そのまま研究を続けるのではなく、2022年4月からIT企業でシステムエンジニアとして勤務し、2年間にわたりウェブシステムの開発に従事していました。学生時代からコーパスの開発やデータベースの構築に興味があり、これらのスキルを磨くために民間企業での経験を積みました。その過程でシステム設計やプログラミングの知識を深めることができました。2024年4月からは大阪大学人文学研究科の助教として学術研究を再開しました。着任以降、多くの先生方や人事・学務の皆さまに大変お世話になりましたが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座講師 杉本侑嗣先生

 2024 年 4 月に言語文化学専攻理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました杉本と申します。

 研究の中核にあるのは、「言語の科学」です。特に個別言語を実現可能にする人間の認知機能・神経基盤に興味があります。具体的には、機能的 MRI (Functional Magnetic Resonance Imaging), 脳磁図 (Magnetoencephalography), 脳波 (Electroencephalography) などの脳機能イメージングを使用して、言語使用時の人間の脳活動を計測し、計算言語学や自然言語処理で提案された計算モデルを通じて、人間言語の、特に統語レベルの神経基盤の解明を目指しています。近年では、言語学、神経科学と自然言語処理の融合的研究が進み、私自身も計算神経言語学という比較的新しいアプローチを取り入れ、「言語の科学」を探求しています。 大学受験時代に東京大学の酒井邦嘉先生の著書である『言語の脳科学: 脳はどのようにことばを生みだすか』(中公新書)を読んで、ヒトの言葉を脳科学で研究できるということに興味を持ち、大学進学後に言語学の授業を受けたのが、研究の道へ進んだきっかけだったと思います。学部時代は、認知言語学や社会言語学を学びました。特に構文文法に興味があった時期で、Goldberg 流 Construction Grammar, Berkeley Construction Grammar や Sign-Based Construction Grammar の研究に興味がありました。修士時代には生成文法の枠組みで本格的に研究を始め、博士課程は米国ミシガン大学アナーバー校に進学し、研究に励みました。在学中に、指導教官との死別、新型コロナウイルスなどの影響で散々でしたが、新たな指導教官らのもとで、クレオール言語の研究、ブラジルポルトガル語の補文標識の研究を中心に機能範疇の研究を行いました。特に分散形態論と Hagit Borer による Exoskeletal Model を融合したモデルを採用した研究を行いました。クレオール言語はクレオール言語の元となる複数言語からなるハイブリット機能範疇を形成するという提案を基に、言語の普遍性と多様性の問題の一部を検証しました。また、オンライン会議の普及によって、国際研究チームが組みやすくなり、所属にかかわらず、様々な研究者と共同研究をする機会を得ることができ、現在も継続的に複数の共同研究チームでの研究に励んでいます。帰国後は、ポスドクとして、fMRI/MEG 解析を通じた言語理解の研究に従事し、神経科学、自然言語処理などの融合研究にも従事しました。ここでも研究室のボス、院生との交流を通じて、共同研究の楽しさを改めて実感しました。

 こうして書き出してみると、具体的な研究テーマや興味関心が変わっているように見えますが、「言語の科学」という軸はずっと変わってないのかなと思いますし、これからも分野にかかわらず、さまざまな研究者・学生と一緒に「言語の科学」を追求できればと思っております。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

第二言語教育学講座講師 Corentin BARCAT 先生

 2024年4月に大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻第二言語教育学講座に着任しましたバルカ・コランタンと申します。専門はフランス語の話し言葉です。研究に直接関わる分野は音韻論、社会言語学、話し言葉コーパスの分析などです。

 博士前期課程ではフランス語の話し言葉によく見られる音の脱落(/ə/の脱落、三人称il(s)・elle(s)の/l/の脱落、語末の/l/・/ʁ/の脱落)を研究しました。

 博士後期課程ではフランス語でしょっちゅう省略される否定辞のne・n’を分析しました。5つのフランス語母語話者コーパスと1つの日本人フランス語学習者コーパスを分析しました。社会言語学的なヴァリエーションに関心があり、話し言葉コーパスを分析する際に、フォーマルな状況とインフォーマルな状況で何が異なるのか、何が不変なのかを常に考えます。例えば、博士論文で分析した5つのコーパスはコミュニケーション状況が様々で、1)友達同士・家族内での録音、2~3)研究者との面接、4)ニュース番組での政治家のインタビュー、5)(同じ)政治家の演説を分析しました。この多面的な分析のおかげで、ne・n’の省略に関しては例えば、1~4の状況と5)の状況で、母語話者の話すフランス語が大きく異なることが分かりました。

 博士前期課程の時から複数の母語話者の話し言葉コーパスと学習者の話し言葉コーパスの作成に関わり、人が口にしていることを文字にする作業が、研究の面でも教育の面でも、非常に勉強になりました。人間は自分の母語を話している時、どのように話しているのかを必ず意識しているわけではないので、勘だけで判断せずに、コーパスを分析することが非常に重要であると思っております。自分でもコーパスを分析する際に、驚くような結果が現れたりしますが、それが新しいことを知るきっかけにもなります。

 出身はフランスのトゥールです。フランスの大学ではジャーナリズム、社会学と歴史学を勉強しました。そして、昔から外国語に興味があり、中学校では英語とスペイン語、高校ではイタリア語、大学時代には独学で日本語を勉強しました。子供の頃から日本や日本の文化に関心があり、2012年に来日しました。最初は日本語学校でひたすら日本語を勉強しました。そして、2015年に研究生として東京外国語大学に入学し、言語学を初めて学び、翌年に博士課程前期課程で研究を開始し、2018年に博士後期課程に進学しました。2012年から2024年までずっと東京に住んできましたので、関西での生活は初めてですが、新しい環境で生活するのがとても楽しいです。

 時間がある場合は運動します。子供の頃は柔道、テニスとバドミントンをしていました。今は週に2・3回ぐらいジムに通い、主にランニングします。スポーツを見るのも好きなので、試合やスポーツ番組のポッドキャストをよく聴きます。歴史、特に世界史のポッドキャストも聴きます。週末は友達とゲームやボードゲームをするのが大好きです。又、音楽が好きで、子供の頃からピアノを弾いています。特にショパン、ドビュッシーやモーツァルトの曲が好みです。どうぞよろしくお願い致します。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座准教授 八木堅二先生

 2024年4月に理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました八木堅二です。よろしくお願いします。

 私は中国語を専門の言語とし、特に言語地理学や方言のフィールドワーク、文献調査などの手法を用いて研究を進めています。中国語というと「普通話」と言われる標準中国語を思い浮かべる方が大半かと思いますが、14億の人口を擁する中国では数多くの方言が話されており、中国語とは異なる民族言語も多く存在しています。広大な土地で話されている中国語方言は発音も語彙も文法すらも標準語とは大きく異なる場合があり、互いに話が通じないこともよくあります。標準中国語ではすでに失われてしまった古い中国語の特徴を方言が保存していたり、逆に今後標準語でも起きるかもしれない変化を方言が先取りしている場合もあります。中国語とは何かを考える時、方言を無視し標準語だけで議論を終わらせることはできないのです。また非常に多くの方言が存在しているため、さまざまな言語変化や言語現象を観察する事ができます。中国語方言の研究は人類の言語に普遍的な現象や地域に特徴的な現象を理解するためにも役立つことでしょう。また東ユーラシアにあって長期にわたり日本語を含む多くの言語と接触・交流して来たことから、周辺言語の理解にも寄与するのみならず、世界の言語の歴史を知る上でも重要な役割を果たすと考えられます。言語の歴史を知るという点では古くは金文・甲骨文に及ぶ文字資料を豊富に有する事も当然ながら大きな利点と言えます。

 これらの膨大な資料に精通し、正確な理解に基き議論を展開して行く事は決して簡単ではありませんが、デジタル技術の急速な発展により二十世紀には思いもよらなかった研究も今は可能となっています。様々な新しい技術にも目を配りつつ、人間としての感覚や思考を大切にして地道に研究を続けて行きたいと私自身は考えています。

コミュニケーション論講座准教授 劉 驫先生

 このたび、言語文化学専攻コミュニケーション論講座の教員として着任しました、劉 驫(りゅう ひょう)と申します。当ページをご覧の方の中には、博士前期課程および後期課程に興味をお持ちの方も多いかと思いますので、ここからは、指導可能な研究分野と、大学院での指導経験について簡単に紹介します。

 まず、指導可能な研究分野についてです。これまで、私は主に理論言語学(特に語用論、認知意味論)の立場から、指示語用論、対人語用論、語用論的意味などのテーマを中心に研究を進めてきました。主たる対象言語は中国語ですが、日中対照研究も行っています。そのため、理論言語学の観点から中国語の研究や、日中対照研究に取り組む予定のある方の指導が可能です。

 次に、大学院における指導経験についてです。2019年10月から2024年3月まで、九州大学大学院地球社会統合科学府にて博士論文5篇(副査)、修士論文6篇(うち主査4篇)の審査を担当しました。また、神奈川大学大学院人文学研究科では、学外委員として博士論文の審査(副査)を行った経験もあります。具体的に言えば、日本語のSNSなどに見られる「かよ」の非典型的な用法(たとえば、「公式のグッズかわいいかよ、これは課金しかないね!」)や、中国語の“但是”、“不过”、“可是”(日本語の「しかし」や「でも」に類似する表現)の手続き的意味について関連性理論のアプローチから研究を行った学生もいれば、談話モデル理論を用いて中国語の人称代名詞や再帰代名詞などの指示表現を研究した学生もいます。 以上が、私の指導可能な分野と大学院での指導経験の概要です。ところで、数年前から当研究室への入学希望者が多く、毎年増加傾向にあるため、全員のご希望にお応えすることは難しい状況です。そこで、皆さんがこちらの研究室とのマッチ度を確認していただけるよう、以下の項目を用意しました。

1. 自身の研究テーマに加え、幅広い言語学的素養を身につけたい方

2. 日本語だけでなく、英語で書かれた学術図書や論文を読むことが好きな方

3. 言語現象の記述にとどまらず、その背後にあるメカニズムを理論的に解明することに興味がある方

4. 高度なリサーチスキルと批判的な思考力を活用し、自立して研究を進められる方

5. 学位ではなく、学問に対して真摯な態度と旺盛な知的好奇心をお持ちの方

6. 研究者になるために研究を行うのではなく、研究をするために研究者を目指している方

 これらの項目にできるだけ多く該当する方と、言語研究の魅力を共有できる機会を楽しみにしています。