ご挨拶・概要・沿革

ご挨拶

言語文化学専攻の源流は、本学に1989年に設置された(初代の)言語文化研究科にあります。この研究科は言語文化学の分野における最初の大学院独立研究科としてスタートしました。そして今や、言語文化学という学術分野は日本国内においてかなり定着したのではないかと思います。言語文化学とは、人間という種に根付いた言語や文化の諸相を超域的、理論的な観点から研究し、その成り立ちや現在の姿を解き明かすことを目指す学術分野だと言えるでしょう。

人間は多くの場合、家族、地域、国と言った大小様々な共同体に属しており、それらの共同体の様々な営みから言語や文化が生みだされてきました。そして、個人と個人、あるいは共同体と共同体の接触や融合が言語や文化の変容の大きな要因となってきたのでしょう。言語文化学はこのような性格を持つ言語や文化を研究対象としており、必然的に共時的な視点と通時的な視点の両方を併せ持つ学術分野となっています。

本専攻における研究の対象は多岐に渡ります。文学、映像、思想、といった人間の様々な文化的事象及び概念を対象としたもの、多種多様なグローバル社会におけるコミュニケーションや第二言語教育に関する諸問題に対して理論、実践等の複合的な観点から取り組むもの、言語能力の認知基盤の解明をめざすもの、伝統的な人文学とデジタル技術の融合により人類の知の取得や解釈、表現方法などの再構成に取り組むもの、等です。どれも「言語」や「文化」を主要なキーワードとしたものであり、人を人たらしめる性質とは何なのか、といった人間という種の根源に迫るものばかりです。近年、学際的研究の重要性は益々高まっており、言語文化学も例外ではありません。本専攻では、デジタルヒューマニティーズをはじめとして、他部局との協力関係に基づく研究が精力的に行われており、今後もこの傾向はますます顕著になると思います。

また、現在の言語文化学を取り巻く環境を考える時、生成AIに代表される技術革新の影響を考えないわけにはいきません。生成AI研究・開発の進展のスピードには目覚ましいものがあり、このような技術革新の影響が及ばない領域はないのではないかと思えるほどです。このことは、文学や映像分野における創作活動にも当てはまりますし、高度な認知能力を要するとされる、人と人の対話も同様です。ChatGPTは今や若者の間で「チャッピー」の愛称で親しまれ、悩み事を相談する相手(場合によっては生涯のパートナー)としての役割を獲得するまでに至っています。

しかし、生成AIが(究極的に)人と等しい形で言語や文化的素養を持ち合わせうるかという問いに対する答えは出ていません。生成AIが言葉を駆使する様は、時に私達に感動すら与えます。機械が人の言語を獲得するところまで来たと感じる人も少なくないでしょう。その一方で、生成AIが紡ぐ言葉と人の言葉は似て非なるものであり、生成AIが人と同じように言葉の意味を理解することはないという見解もあります。そして(ここが重要なのですが)上述の問いに答えるためには、まず、人が言葉の意味を理解するとはどういうことなのかという問いに向き合わなければなりません。そして、そのような問いに向き合う際には、言葉の意味の背後にある文化的・社会的な諸相に対する適切な理解が欠かせません。

現代社会に生きる私達がこのような技術革新の成果とどのように向き合っていくかというのは難しい問題です。しかし、はっきりと言えることは、言葉、文化、思想、といった人間のこころによる所産物を学際的なアプローチにより研究する場合、言語文化学の諸分野で培われ、蓄積されてきた高度な知見が果たす役割が非常に大きいということです。同時に、これからの言語文化学の諸分野の研究においても、他分野の研究成果や知見を十分に活かすといった柔軟な思考が大切になると思います。

本専攻における大学院教育は以上のような学術的背景を念頭においています。また、本学では、大学院等高度副プログラムや人文社会科学系オナー大学院プログラムのように、異分野の研究者や大学院生と交流し、学際的研究の醍醐味を体感できる機会が提供されています。本専攻は、このような研究・教育環境を最大限に活かし、言語や文化に関する高度な専門的知識を持ちつつ言語文化学的な視座から社会の諸問題に取り組むことができる人材の養成に尽力してまいります。

2026年4月

言語文化学専攻長

越智正男

人文学研究科言語文化学専攻の概要

人文学研究科言語文化学専攻は、超領域文化論講座、表象文化論講座、コミュニケーション論講座、第二言語教育学講座、理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座、言語認知科学講座の6講座からなっています。

本専攻では、国際社会を構成する諸地域・諸国民の伝統や文化の相互接触や変容、これらの伝統や文化間の相違をこえて有効なコミュニケーションを成立させる言語や記号のメカニズムの解析、その運用と基礎的な言語理論の開発、自然言語の機械処理やその基礎となる数理モデルや文法理論を中心とした言語工学的な情報処理、国際的な情報社会における言語文化情報の活用能力の開発などの研究と教育にあたっています。またそのことによって、旧来の伝統的な枠組みを脱却した、言語を中心とする新しい学問領域での教育と研究の方法の確立と、指導者養成を目指しています。

本専攻は入学者の出身学部等の如何を問わず、国際コミュニケーション社会において必要とされる言語と文化に関する高度の教養、ならびに情報活用能力を十分に発揮できる人材の育成を目的としています。そのため、入学者は出身学部等における自己の専攻を基礎としながらも、この趣旨を十分にふまえて履修すべき授業料目を選択し、特定の研究領域にのみ偏ることがないようにしなければなりません。一応の目安として、以下の3通りの標準的履修分野を想定し、研究指導を行うこととしています。
  • 分野1
    超領域文化論および表象文化論を中心に履修します。
  • 分野2
    コミュニケーション論および第二言語教育学を中心に履修します。
  • 分野3
    理論言語学・デジタルヒューマニティーズおよび言語認知科学を中心に履修します。
言語文化学専攻 概要

沿革

本専攻のルーツは、大阪大学言語文化部を基盤として平成元(1989)年4月に発足した言語文化研究科に遡ります。言語文化学 1 専攻の修士課程で発足し、その後、学年進行にともない、平成 3 (1991) 年 4 月に博士課程が設置されました。言語文化研究科はこの分野における全国最初の大学院独立研究科でした。情報工学の専門家を教授陣に加え、当時ではまだ珍しかった文理融合を視野に入れた大学院としてスタートしたのです。人文科学・社会科学・自然科学のいずれの分野からでも人材を受け入れ、それぞれの専門を基礎としながら、国際化・情報化社会の発展を推進していくことのできる、学際的な研究・教育の体系を築くことを目的としました。

平成 3 (1991) 年には教員・学生をメンバーとする大阪大学言語文化学会が結成され、平成 4 (1992) 年 3 月より学会誌の刊行が開始されました。そして、平成 6 (1994) 年 3 月、本研究科は新研究科棟の完成とともに、博士課程第1期生を送り出しました。平成12(2000)年からは共同研究プロジェクトが始まり、院生をもまじえた活発な共同研究が継続されて毎年10を越えるプロジェクトの研究報告が刊行されています。

平成17(2005)年4月には、研究科発足当時からの念願であった再編拡充が言語文化部の発展的解消により実現し、新設2講座を含む7基幹講座の体制で再出発することになりました。

平成19(2007)年10月には、大阪大学と大阪外国語大学との統合に伴い、言語文化研究科は「言語文化学専攻」を「言語文化専攻」と名称変更し、講座再編をおこなうとともに、「言語社会専攻」を新設(箕面キャンパス)して、2専攻となりました。

令和3(2021)年4月には、当時協議が始まっていた文学研究科と言語文化研究科の統合を視野に入れつつ、言語文化専攻は先んじて講座再編を行いました。分野I「超領域文化論講座/表象文化論講座」、分野II「コミュニケーション論講座/第二言語教育学講座」、分野III「理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座/言語認知科学講座」、という構成に組み変えるとともに、授業科目も一新して本専攻の特色をより明確に打ち出すことができる体制になりました。

令和4(2022) 年4月に、文学研究科との統合に伴い人文学研究科が設置され、本専攻は「言語文化学専攻」と名称が変わりましたが、6講座から成る体制はそのまま保持されています。伝統的なディシプリンにとらわれず、分野の壁を越えて連携しながら、新たな人文学の研究領域や方法論を探究しています。
言語文化学専攻 沿革