博士前期課程授業科目概要

言語文化学専攻共通科目

研究実践基礎

研究倫理、研究調査、レポート・論文の作成や研究発表の基礎を身につけます。具体的には、研究倫理についての基礎知識、研究調査の基本的な方法、修士論文の書き方の基本、研究発表の基本的な方法等を学びます。

※この科目は博士前期課程1年次の春学期(月曜5限)の必修科目で、クラスは指定されます。

研究発表演習

研究成果を論理的に表現し、体系的にまとめる能力を向上させます。修士論文の作成や発表の具体的な方法を学び、修士論文中間発表のための実践的訓練を行います。

※この科目は博士前期課程2年次の夏学期(月曜5限)の必修科目で、クラスは指定されます。

言語特別演習

言語文化学専攻の各講座の枠を超えて開講される、講座横断・専攻共通の言語演習科目です。基本的に受講者の第1言語以外の言語により、専門的な研究調査、海外研修、論文執筆、国内外の学会における研究発表等に積極的に取り組み、成果を挙げるために必要とされる、大学院学生にふさわしい高度な言語運用能力を養成します。各言語の母語話者がそれぞれのクラスを担当し、各言語の読解力、論文作成能力、プレゼンテーション能力等を向上させるための演習を行います。

超領域文化論講座

超領域文化論

伝統的なディシプリンを基盤としながらも、既存の研究領域や研究方法にとらわれない新たな領野や方法論の開拓も視野に入れつつ、世界各地の言語文化の歴史的な変遷、それらの現在の実相における共通点と相違点を追究します。同時に、今日ますます多文化・多言語社会へと変貌してゆく世界、ならびにその過程で生じてきた様々な課題について超領域的な視点から考察します。

ジェンダー論

フェミニズム、ジェンダー、セクシュアリティに関する研究を基礎とし、社会と文化に内在する性差の構造の諸問題や、ジェンダーとセクシュアリティの表象を分析・考察します。またLGBTを始めとする性的マイノリティのみならず、障がい、人種など様々なマイノリティをめぐる研究領域を横断する議論を模索しながら、既成概念にとらわれずに、多様な個性を尊重した社会を形成するための高度な言語文化リテラシーを育成します。

グローバリゼーション論

国家の枠を超えた関係性と地球規模の人・情報・モノ・資本の動きを特徴とするグローバリゼーションのなかで営まれる経済・文化・政治活動が固有の言語文化や市民社会のあり方に与える影響を考察します。移民・難民・テロリズム・環境問題など現代世界の抱える様々な課題について、文化理論や社会理論、フィールドワーク、テクストや表象の分析を通して多面的、重層的に理解し、「他者」に向き合う想像力の育成を目指します。

言語文化共生論

現代世界において人間は、グローバルなレベルで他者への理解を深め、対立を調和へと転じるための知を探究し実践する必要があります。本科目では、広義の文学・文化テクストを素材にして、言語・民族・人種・階級・宗教などの差異に由来する文化の移動・交流・摩擦・変容などの諸現象を共時的かつ通時的な視座から分析します。それにより、異なる立場に在る人々が有限な地球環境において共生するための方途を探ります。

言語文化形成論

現代において、ある一つの言語文化環境にグローバル化とローカル化、集団と個人次元のアイデンティティが拮抗しながら並存する状況が生じています。このような状況を視野に入れながら、様々な種類の言語文化的な集団の形成過程ならびにその変容・継承などの動態を通時的・共時的視点から分析し、アイデンティティの多様性と複合性、「差異をめぐる政治」など言語文化と社会的諸条件との相互関係を総合的に考察します。

表象文化論講座

表象文化論

書物、絵画、映画などを含む各種の作品とその媒体(メディア)に加え、広告や演説なども含めた言語文化テクスト、その他、物語性を有する各種の表象の問題を受講生とともに読解・分析します。表象、テクスト、作品としての物語の生成・構造・変容・伝播・作用を分析し、構成された語りに関わる表象の問題、文化的事象、自己や他者の像を表出する表象の問題を、社会的・歴史的・政治的文脈の中で多角的に考究します。

言語文化比較交流論

世界の複数地域の言語・文化・表象の比較、および異言語接触によってもたらされる言語文化の変容について、具体的な題材に即して考察します。テクストの詳細な分析を行いつつ、代表的な文化理論をも学びます。受講生はテクストの文化的意味を多言語・多文化的視座にもとづいて理解しようと努めることが求められます。異言語の読解力ならびに批評能力を高め、文化的他者理解のあるべき姿について考えを深めることを目指します。

翻訳研究

翻訳は現代のグローバル社会において、さまざまな場面で欠かせないコミュニケーションの一形態です。また、文学作品をはじめとする文芸表象は、異言語・異文化の社会における受容や、異種の芸術ジャンルにおけるアダプテーションを通じて変容しますが、これもまた翻訳と関連する問題と考えることができます。この科目では、文学作品の翻訳、翻案、再話、アダプテーション等についての考察、多様なテクストを訳す実践演習を行うほか、関連する諸理論・諸問題についても考究します。

コミュニケーション論講座

コミュニケーション論

諸言語における言語行動の比較・対照研究、および、言語を行為や社会・文化の中で研究する諸分野の知見をもとに、言語も含む様々な記号に媒介されるコミュニケーションのメカニズムの解明を目指します。特に、言語文化的背景・社会的要因・個人的属性・メディア的特性などがコミュニケーションの(不)成立に及ぼす影響を多角的に追究します。また、多様な言語、文化、価値観がひしめき合う現代社会において相互の交流を可能にするコミュニケーション・リテラシーを考究します。

語用論研究

音声学・音韻論および語彙論・統語論を基礎として言語能力と言語運用の関連を追究し、言語運用の実際に基づくデータを意味論・語用論の立場から分析して発話や談話の構造を考察するとともに、その原動力となる人間の認知能力・認知メカニズムの解明を目指します。相互理解に必要な意思疎通と合意形成のための言語能力の開発に向け、コミュニケーションを成り立たせるために必要な情報の組み立て方や提示法などをはじめとする、言語運用の基盤となる理論を構築し、さらにコミュニケーションをデザインする力を追究します。

言語技術研究

実際のコミュニケーションの場で使用されるさまざまな手段のありようについて幅広く資料を収集して分析するとともに、異文化間の高度な言語コミュニケーションを成り立たせるための技術および理論について学びます。また、日本語を第二言語とする人々の間で高度のコミュニケーションを成立させるための技術および理論についての研究を行い、日本語が国際語として機能するための基本的条件を検討します。さらに、映像や音声を用いた情報を解析して、多様な表現技術が教育的実践に応用できるように研究指導を行います。

社会言語学研究

言語を社会的なコンテクストにおいて考究する社会言語学の基礎理論を論じ、その相関関係に基づく言語研究の実際について研究指導を行います。会話などのコミュニケーションを社会的な営みと捉えてそこで行われるやり取りを分析するミクロ的アプローチ、また言語学と社会学にまたがる学際的分野として話者の社会的属性をはじめとする社会的諸要因との相関で言語の多様性を分析するマクロ的アプローチなど多様な観点から、言語と社会との相関関係における複雑な様相や諸問題を読み解いていきます。

第二言語教育学講座

応用言語学研究

「応用言語学研究」は、第二言語習得論、第二言語評価論、第二言語語用論、第二言語心理学研究、第二言語テクスト分析などの観点から母語以外の言語を研究し、学習、教育、分析のための学術的基盤を構築する科目です。

第二言語習得論では、学習者がどのように第二言語を習得するのか、その理論と実践を理解します。第二言語評価論では、言語教育という枠の中で言語運用能力とは何かの理解から始め、教育現場での教育内容や教育活動を踏まえた上で、言語運用能力を定義し、測定して評価に反映させる方法を学びます。第二言語語用論では、実際に第二言語を使用する際のいつ、誰に、どのような事柄を、どのように話すべきなのかといった言語・表現の選択に関わる知識・規範を第二言語学習者はいつどのように学ぶのか、そしてそうした第二言語使用に関する知識・規範をどのように研究し、教育し、また測定できるのかを考察します。第二言語心理学研究は、動機づけを中心に、第二言語学習時における心理的要因に焦点を置いて、理論と実践を包括的に学ぶことを目的とします。第二言語テクスト分析では、テクスト言語学を例に、応用言語学分野の基本的概念、方法論を知り、それにのっとった問題の発見、データ収集、分析方法を習得します。

第二言語研究法

「第二言語研究法」では、量的研究法と質的研究法の両面からデータの収集・分析法に習熟し、分析結果から研究デザインや論文執筆へ導く方法を学びます。

量的研究法では、量的研究の研究デザインと統計的な概念の理解を含めた統計手法を学習します。統計手法については、記述統計・信頼性係数・相関・重回帰分析、分散分析の基礎的な知識と原理を中心として、応用的な多変量分析の基本までを学びます。更に、実際のデータを使用し、統計アプリケーションを用いて分析を行います。教育現場でのデータ収集を念頭に、研究デザイン、研究課題、研究方法を考え、応用することを到達目標とします。

質的研究法では、行為主体性 (agency) を持った人による行為としての第二言語の学習、教育、そして実際の使用に関して、どのような事柄を明らかにすることで、どういった教育的あるいは社会的還元が可能となるのかを考察します。人の営みを明らかにすることを狙いとした諸理論と各理論を下敷きにした研究法(例えば、エスノメソドロジー的会話分析やライフストーリーなど)を学び、受講生が興味・関心のあるテーマについて研究プロジェクトを体系的にデザインし遂行できるようになることを到達目標とします。

第二言語教育方法論

「第二言語教育方法論」は、第二言語運用の諸技能を、理論と実践の両面から研究し、より高度な習得・教育方法を考究する授業であり、リーディング、ライティング、リスニング・スピーキングを扱います。

リーディングでは、テクストの読みのプロセスを学ぶと同時に、外国語の学習、教育において読みがどのように位置づけられているのか考察します。さらに、言語教育や言語習得における理論を援用しながら、教材分析をとおして、読みの教育方法を開発する能力を養うことを目標とします。外国語教育や国語教育、言語習得における理論や知見、さらには教材分析をとおして、読みの教育方法を開発する能力を養うことを目標とします。ライティングでは、ディスコースジャンルの意識と、ジャンル特有のレトリックなどについての理論的な考察をベースに、自らのライティング実践を通して教室等での教育法と教育的適用を考察します。リスニング・スピーキングでは学習者はどのようにリスニング・スピーキングを習得するのか、理論と実践の両面を研究します。先行研究を踏まえて、第二言語の理解や発話メカニズムを検討し、リスニング・スピーキングのための指導法を考察し、教室での応用を考えます。

第二言語教育実践研究

「第二言語教育実践研究」は、カリキュラム開発、教材開発、教育メディア論、授業研究、第二言語教授法など、第二言語教育の実践を多面的に考える授業であり、併せて先端的なテクノロジーやメソドロジーを駆使した教育メディア論や教材開発を考究します。

カリキュラム開発では、ニーズ分析や状況分析に基づく学習到達目標の設定から、言語習得・学習理論を考慮したカリキュラムデザインや到達目標達成の評価までを包括的に学習し、具体的な状況に応じたカリキュラム開発について考察します。教材開発では、母語以外の言語を学ぶ際に、教育施設またはそれ以外で自律的に学習を行うためのリソースについて、従来の教材開発の省察を通し、人的・社会的・物理的な面からそのデザインを検討して新たなリソースの開発を試みます。教育メディア論では、日々進歩する情報コミュニケーション技術(ICT)を言語教育・言語学習に活用するための基礎知識を身につけ,これからの教育現場でのICT支援のあり方を考察します。

授業研究では、第二言語教育について、Reflective Practice の理念による省察等を含め、具体的な授業実践のあり方について学ぶとともに、その理論的基盤について考察します。また、第二言語教授法では、Audio-Lingual Approach 等の伝統的な教授法から CLIL (Content and Language Integrated Learning) など近年の教授法まで、第二言語教授法の理論と実践について学びます。

第二言語社会・文化研究

「第二言語社会・文化研究」では、言語と文化と社会と自己の相関について理論的に考究するともに、そうして得られた視座の下、多言語多文化現象、複言語主義、トランスランゲージング、言語政策等についてクリティカルに検討します。言語を即物的に捉えて単にスキルとして教育するのではなく、文化や社会の構成や自己の構築との関係への深い洞察を基盤として言語教育や言語政策を批判的に検討し、新たな言語教育や多言語状況での教育を構想し実践することができる高度な複眼的視点を養成することを到達目標とします。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座

理論言語学

言語学を自然言語に関する科学と捉え、人間の言語能力の解明を最終目標として、統語論をはじめ音韻論、形態論、意味論、さらには、それらのインターフェイスについて幅広く研究します。また、言語の研究における科学的なデータの収集方法、論証の組み立て方といった方法論の問題も含めて理論言語学の様々な課題について学びます。

心理言語学

第三言語までを研究対象として、言語獲得をめぐる諸問題について、生成文法をはじめとする理論言語学の知見に基づき研究します。特に言語獲得過程を解明することを通して、言語の普遍的な側面、個別言語の統語構造、意味構造等を解明する手法を学びます。また、実践練習を通して言語獲得の研究におけるデータの収集方法への理解を深めることを目指します。

史的言語研究

現代社会で用いられている以前の言語を主たる対象として、特定の時代における音声・文字・綴り・形態・統語法・意味・語彙に現れた諸特徴や複数の時代にわたる変化を、当時の文献、当該時代についての記述・資料やコーパスなどの分析を通して研究します。当該言語がどのように成り立ち変化したのかを、その原因・契機を含め実証的・理論的に考察することで、現代の言語の諸相への理解を深めることをも目指します。

言語統計学

理論言語学、言語獲得論、心理言語学、実験言語学、社会言語学、自然言語処理、コーパス言語学で使われる統計的手法の基礎を互いに有機的に結びつけながら、演習を交えて学びます。数学的議論に馴染みのない人を主な受講者と想定しつつ、基礎的な内容から徐々に発展的なモデルへと段階を踏んで理解を深めていくことを目指します。

デジタルヒューマニティーズ

言語データや文化資(史)料を研究対象として、デジタル処理・解析のための理論的枠組みや方法論の精緻化を進めながら、言語文化学と情報学の知見に基づいた分野横断的研究を行います。自然言語処理技術や数理的モデリングを高度に応用して、大規模テクストコーパスやデジタルアーカイヴの潜在的特徴を解明する方法論を究めます。

言語認知科学講座

言語認知科学論

人間がどのように外界を認知し、知識を獲得しているのか、またさまざまな情報を処理しているのか、言語の情報処理の観点から人間の認知的システムを科学的に捉えることにより、人間の認知メカニズムのひとつとしての言語能力の仕組みと働きについて研究、教授します。また、言語学においてこうした観点に立つ認知言語学について、理論的枠組みと具体的な言語研究への適用との両面にわたって研究、教授します。さらに、言語間の対照研究について認知言語学の立場からどのようなアプローチが可能かについても追究していきます。

認知言語学研究

認知科学の方法論を言語研究に適用した分野としての認知言語学の方法を論じ、人間の認知システムに基づく言語研究の実際について研究、教授します。認知言語学の様々な理論的枠組みを幅広く視野に入れ、構文文法なども含めて、認知言語学全般について包括的に取り扱います。また、認知言語学の枠組みによる日本語、英語、フランス語などの個別言語の研究も中心的課題のひとつとして追究していきます。さらに、認知言語学の理論的枠組み自体に関する研究も積極的に進めます。

認知意味理論研究

認知言語学の観点から自然言語の意味論・語用論について研究、教授します。言語の意味解釈の過程に関わってくる様々な側面について、言語形式そのものの意味はもとより、推論の仕組みと働きなどについても幅広く考察することにより、言語の意味解釈メカニズムの解明を目指すとともに、さらに広く人間の認知能力・認知メカニズムの解明を目指します。また、意味解釈メカニズムの言語間対照研究や第一、第二言語習得における意味論上の問題についても、認知言語学の視点から新たな研究を進めます。

認知レトリック論研究

人間の精神活動の重要な側面に深く関わる現象としての意味、レトリックなどを研究対象とし、人間の認知メカニズムについて幅広く探求します。メタファー、メトニミーなど様々な意味産出のメカニズムについて、認知言語学的観点から研究を進めます。また、言語の通時的な研究についても、新たな意味産出のメカニズムの成立という観点から取り上げて研究を進めます。自然言語の持つ共時的、通時的、さらには両者を統合した汎時的なダイナミズムを認知言語学の枠組みから解明することを目指します。