言語文化学事典

アイデンティティ identity

この言葉を理解するためにはつねに「個」individualと「集団」groupとの切っても切れない関係について考慮しなければならない。すなわち「自分はだれか?」 Who am I?を考えるためには「自分はどこに属しているか?」Where do I belong? という「帰属意識」sense of belongingに思いを馳せなければならない。つまり自分が女か男かというアイデンティティの決定には「女性」「男性」という集団への帰属の問題が関わるのだ。また、帰属意識は社会的、文化的要因で決定される。ある規準(たとえば性器の種類)により社会的、文化的に決定された性と自分(self)の基準(たとえばどの性を愛するか)との間に生じる帰属意識の齟齬が性同一性の「障害」となる。ただし、個人的な基準もそれ自体が社会的、文化 的に決定されていることを忘れてはならない。したがって、アイデンティティは様々に幾重にも規定しうるもの(複数のidentities)ではあるが、それは社会や 文化の網の目の中でつねにその正当性の問題を問われ続けるゆえに、アイデンティティの「選択の自由」「解放」は安易なことではない。自己の問題としてだけではなくコミュニティー意識の問題に関わる用語として「アイデンティティ」をとらえる視点が大切である。

アカデミック・ライティング

論文など、学問的な考究や伝達を目的としたテクスト、およびその執筆技法を指す用語。近年アカデミック・ライティングは、独自のコミュニティーの中で生成・共有される、明確に独立したジャンルのディスコースとして位置づけられ、特有の語彙、構文、語法、論述構造、レトリックなどが解明されつつある。「研究者」(学術コミュニティーの十全な参加者)であることは、アカデミック・ライティングの熟達者となることでもある。

遊び play

個々の「遊び」についての文化人類学(あるいは民俗学)的研究、おもに子どもの「遊び」についての心理学的研究などは学問体系として確立している感があるが、人間的行為としての「遊び」(つまり「文化として遊び」)の意義を問う研究は、ヨハン・ホイジンガの『ホモルーデンス』とロジェ・カイヨワの『遊びと人間』を超えるものは出ていないのではないか。「余暇」leisureや「レクリエーション」recreationの研究が社会学や教育学で実績を上げているのに対して、「遊び」playという概念の規定は、あまりにも漠然としており曖昧であるゆえに、「遊びは文化である」「人生は遊びである」という一般論に帰着してしまう。たしかに、生活道具/玩具、実体験/疑似体験、労働/余暇、真面目/気晴らしといった対立関係に従えば「遊び」は理解しやすい。しかし、遊び道具(玩具、ゲームなど)の研究、実人生と区別した遊び(ごっこ遊び、レジャーなど)の研究のみではなく、「日常」「生活」「人生」の中で同時に並行して行われている行為として「遊び」(つまり「文化=生き方としての遊び」)を考える意義は今あると思う。「遊び心」とは極めて人間的なものであるはずだ。

イメージスキーマ Image schema

空間認知、運動感覚など、物理的に外界と関わる経験を通して形成される抽象的な図式的概念表示をいう。例えば食事や呼吸といった経験から私たちは自身の身体を容器として理解し、内部・境界・外部という要素からなる<容器>のスキーマを形成し、これにより花瓶や鞄、部屋や建物、駅や公園をも容器として理解する。イメージスキーマは抽象概念のメタファー的理解にも寄与する。「心の内」「年内に仕事を終える」「忙しい中を御苦労様」「仲間入り」のように、精神活動、時間、状況、人間関係も<容器>のスキーマによって理解される。

宇宙時代 Space Age

狭く解釈する場合には、1961年のユーリ・ガガーリンによる最初の地球周回軌道の飛行から1974年の最後のスカイラブ・ミッションにいたるまでの、およそ15年ほどの短い時代。広く解釈する場合、アメリカの「宇宙時代」は、世界で初めて液体燃料ロケットを開発したロバート・ハッチンスン・ゴダードによる1910年代の研究に始まり、宇宙でのさまざまな探査活動が続く、21世紀に入った現在をも含む時代を意味する。

エスニシティ ethnicity

「エスニシティ」はギリシャ語の“ethnikos”に起源を持つ語であり、本来は異教徒・非キリスト教徒という宗教的意味合いを強く持っていた。1940年代にアメリカ社会学の主流となったシカゴ学派の著作においてこの語は本格的に使われ始め、それ以降、文化的な差異を指し示す言葉として一般に定着していく。身体的差異に基づく区分である「人種(race)」としばしば対比的に使われる「エスニシティ」であるが、この語の含意する同化主義的なニュアンスに注目し、両者の間に本質的な区別をつけない論者もいる。

オリエント The Orient

明示的には、ある地域から見て「東方」を指す言葉であり、語源は”rising sun”、”east”の意味であるラテン語のoriensである。しかしながら19世紀の帝国主義の時代になって、ヨーロッパから見た東に位置する「オリエント」は、単なる相対的な位置関係ではなく、中心に対する周縁、すなわち、見られ・欲望が投影される「他者」として従属させられていく。このことを最初に体系的に論証したのが、エドワード・W・サイードの『オリエンタリズム』である。

概念構造 Conceptual Structure

動詞の意味のうち,その動詞がどのような構文に現われ得るか,どのような構文交替を起こすか,あるいは,どのような語形成規則が適用できるか,といった形態統語的性質の決定に関わる主要な要素を意義素として抽出し,それらを用いて動詞の意味を分解し階層的に表した意味表示を語彙概念構造(Lexical Conceptual Structure =LCS)と呼び,これを基盤として構築される意味表示を概念構造と呼ぶ。語彙意味論*の意味表示として定着しているが,これと類似した意味表示は古くは生成意味論に遡り,生成文法的アプローチによる統語論でも様々な形でしばしば利用されている。意義素としては,使役関係を表すCAUSEや変化を表すBECOME,状態を表すBEのほかに移動に対してMOVE,状態維持に対してSTAYなど,動詞の中核的意味を構成する意義素と,AT, TO, FROM, INのような前置詞で表される項の性質を決定するものとがある。前者は,動詞のアスペクト素性を表すものでもあり,いわゆるVendlerの動詞の4分類も明確に表示することを可能にする。後者は,言語表現の基本が空間的位置関係にあるとする「場の理論」を前提とし,空間的な意味以外にも拡張して用いられている。たとえば,対象物の変化を引き起こす典型的な達成動詞の概念構造は,[x CAUSE [BECOME [y BE [AT z]]] のように表されるが,put のように物体の位置変化を引き起こす場合は,zが移動先の場所を表す項であり,freezeのように物体の状態変化を引き起こす場合は,zはFROZENという語彙に固有の意味である定項によって表される。先述のとおり,厳密には,単語の意味を表すのが語彙概念構造で,それを基盤にして構築された句や文の意味表示を概念構造と呼ぶが,Jackendoffの概念意味論では,両者を含む意味表示をすべて包括する概念レヴェルをConceptual Structureとし,認知システムの一部門として位置づけている。彼のモデルにおいては,概念構造は統語構造と音韻構造それぞれに対応規則によって関係付けられ,いずれとの間にも派生関係は認められていない。概念構造は,推論や前提を明示的に表すものでもあり,統語構造からは自律した原理体系において構築されるものだと考えられている。

概念メタファー Conceptual Metaphor

従来のメタファー研究においては実際の言語表現を問題にしてきたが、Lakoffらは、思考の仕組みがメタファーを基にしており、言語表現のメタファーは概念上の2つの領域間の写像に基づくと考える。この概念メタファーには文化特有のものも言語を越えた普遍的なものもある。人生には「晴れ舞台」もあれば「脇役」の時もあり、人は家では妻・夫、職場では上司・部下という「役割を演じ」、いつか人生に「幕引き」をする。このような多くの言語に見られる一連の表現は概念メタファー<人生は芝居である>を想定すれば包括的に説明できる。

カテゴリー化 Categorization

カテゴリーはその構成要素が必要十分条件の充足により規定される古典的カテゴリーと、プロトタイプとプロトタイプとの家族的類似の観点から規定されるプロトタイプ・カテゴリーの二種類に大別できる。人間の概念カテゴリーの多くは後者のカテゴリーであり、概念カテゴリー形成の営みをカテゴリー化という。カテゴリー化は文脈や文化と深く関わっており、その多くは理想化認知モデルとの相対的関係で動的に形成されると考えられる。

関連性 relevance

スペルベル=ウイルソン(D. Sperber and D. Wilson)の関連性理論では、グライスの第3の会話の公理をより根源的な原理「関連性」として捉え直した。「人間の認知は関連性を最大にするように働く傾向がある」と「すべての意図明示的伝達行為はそれ自身の最適の関連性の見込みを伝達する」とし、関連性の希求という認知的な働きを伝達の基本にすえる。最小の労力で最大の効果が得られるようできるだけ関連性のある発話をすることから、関連性は、守るべき規則というよりは、認知とコミュニケーションを司る原理といえよう。

記憶の文化 Gedächtniskultur, Erinnerungskultur

主にドイツ語圏においてみられ、「集合的記憶」が構成・再構成され、継承され、修正あるいは忘却されていく様相を包括的に表す概念である。記念碑(戦没者記念碑など)や言語(国民語など)はもとより、社会・政治・経済的構造上の諸問題をも含めて考察の対象となりうる。特に、不断に閉鎖性・暴力性を伴ってきた国民国家の歴史(国民的記憶)を批判的に論じる際に有効な概念であるが、同時に、こうした問題提起の生起が、冷戦の崩壊とグローバル化の進行に伴い新たな「価値」の創造が追求される現代社会の動きと軌を一にしていることを見逃してはならない。なお、記憶という概念には想起と忘却の両方が含まれるが、特に前者に力点を置く場合、想起の文化と訳されることもある。

機械翻訳 Machine Translation

コンピュータによる言語翻訳のアイディアはコンピュータの誕生と同時期に生まれている。当初は、コンピュータの記憶容量や計算能力が高まれば、機械翻訳は容易に実現可能であると考えられていたが、やがてこれは幻想であることが明らかとなった。その後、ヨーロッパや日本などで言語学的な規則に基づくシステムの研究が継続的にに行われ、1980年代半ば以降は多くのシステムの実用化も行われた。日本ではこの時期に電機メーカなどで盛んに研究が行われたほか、1986年には機械翻訳などで利用できる大規模な辞書データを構築するため、日本電子化辞書研究所が当時の通産省主導で設立された。一方で、人手によって規則を構築するアプローチの問題点が明確化するなかで、コンピュータの総合的なパワーの飛躍的な発展や大規模な言語データ(コーパス)が利用可能となってきたことから、1990年代からは統計的機械翻訳(statistical machine translation)の手法が盛んに研究されるようになった。統計的機械翻訳のアイディアは、情報理論(information theory)における雑音のある通信路モデル(noisy channel model)という考え方をベースとしている。すなわち、(例えば日本語から英語への)翻訳は受信側で観測した信号(日本語文)から情報源で発信された信号(英語文)を推定するという問題に帰着される。ここで、あらかじめ用意した大量の対訳データに基づいて(この例では英語を日本語に変えてしまうという)通信路の特性を統計的に求める。より具体的には、対訳データ中で統計的に対応関係にある目的言語文の断片を組み合わせて、全体的をとおして統計的に目的言語らしい文を生成する。

協調の原則 cooperative principle

グライス(H. P. Grice)は、発話の際にはその会話の目的や方向性に沿うように「協調の原則」を話者と聴者が遵守しているとした。このような協力行為の具体的な行動指針として、量・質・関係・様態の4つの会話の公理(conversational maxims: 過不足なく確かなことを関係づけて明快に等)をあげている。実際には、一見公理違反のようでも、むしろどうしてそうしてまで言おうとするのか、隠された話者の意図である含意を聴者は推し量ろうとする。発話解釈における推論が可能になるのは、協調の原則が前提にあるためである。

極小主義プログラム

生成文法理論における原理とパラメータに基づくアプローチは、自然言語の特徴を数々明らかにしてきた。極小主義プログラム(Chomsky 1995, 2000, 2001, 2004, 2008)では、この研究成果を基に、これまで提唱されてきた原理・原則等の再検討がなされている。人間が言語を持つようになって、まだ50,000~100、000年である。この期間は、人間が言語のような複雑なシステムを備えるには、あまりにも短いのである(Fodor 1998)。言い換えれば、このような短期間に統率・束縛理論において提唱されているような数々の原理・原則を人間が持つようになったとは考えにくいのである。極小主義プログラムは、この言語進化の過程を踏まえ、1980年代までの生成文法の研究成果を、より少ない言語特有の原理・原則から導き出そうとする試みであるといえる。たとえば、自然言語には下接条件(Subjacency Condition: Chomsky 1973)によって捉えられる特徴があることが1980年代までの研究でわかったが、言語の進化過程を考えた場合、この条件自体をそのままのかたちで維持すべきかどうかは別問題である。この点を考えるのが、極小主義プログラムなのである。

グローカリゼーション glocalization

「グローバリゼーション」は、多国籍企業と米国の文化的帝国主義によって特徴づけられるとされる、高度資本主義の消費社会における文化状況を説明するキーワードとしてもてはやされている。しかし、その過程において必然的な土着化と脱中心化にも注目する必要がある。ソニーはそのマーケット戦略において、日本語の土着化の訳としてglobal localizationという概念を打ち出したが、これを略したglocalizationという用語が、文化研究において転用されている。

経験基盤主義 Eexperientialism

人間は環境の中での身体的経験(例えば移動や方向などの空間把握や五感の感覚)を基盤として、自然環境、社会や文化的環境との相互作用の中で外界が概念化され、それをもとに人間の思考や言語は構成されるという仮説である。言語の意味とは、客観的な記述ではなく、言語使用者によって概念化された外界のあり方を表しており、言語能力は生得的能力だけではなく、むしろ認知経験との関わりの中で発達していくと考える。

計算言語学 Computational Linguistics

コンピュータによって言語を処理すること、また、コンピュータを用いて言語の様々な性質を分析することを対象とする言語学の一領域。前者に関しては自然言語処理とほぼ同義で用いられる。また、後者はコーパス言語学(corpus linguistics)と多くの接点を持つ。ACL (The Association for Computational Linguistics)が刊行する学術誌Computational Linguisticsでは、これらのトピックがカバーされるが、近年では、データ駆動型のアプローチによる研究の比重が高まっている。

*ACL http://www.aclweb.org/

芸術=文化システム

「芸術=文化システム」とは、「真正性」と「唯一性」を基準に人間の生み出す所産を、美術館に収集される「真正な芸術」、民族博物館に収集される「真正な文化的器物」、骨董品コレクションに集められる「非真正な非芸術」(ツーリストアートやお土産品)、技術博物館に収集される「非真正な非文化」(偽物や技術的発明品)に分類する、欧米近代社会に独特なシステムのことである。ジェームズ・クリフォードは『文化の窮状』(人文書院、2003年)で、このシステムに植民地主義的な権力構造が組み込まれていることを指摘した。このシステムでは、モノの分類を媒介に人間関係が「支配する中心/支配される周縁」というかたちで固定されているためである。

言語学習ストラテジー

言語学習ストラテジーとは、学習者が第2言語を学習する際に用いる具体的なテクニックや行動を指す。また認知過程の面からは、新しい情報を獲得、蓄積し、それを活用する際に、それらの活動を円滑かつ効率的に行うために学習者が意識的に使用する様々な方策とされる。学習行動に直接関与する直接ストラテジー(記憶、認知、補償)と、学習過程や環境の構築に関与する間接ストラテジー(メタ認知、情意、社会的)の2つに分類される。

言語計画 language planning

「言語計画」という言い方は、「言語政策」と同義的に使用されることもあるが、言語計画という場合は、一般的に、言語文字自体の規範化や管理に関して計画的、持続的に実施される具体的施策のことを指している。言語計画には、標準音の審議認定、語彙の規範化、学校文法の制定、正書法の改正、新しい文字の創出などのほか、国内で使用される諸言語間の地位の認定や標準語の普及計画に関する政策などが含まれている。

言語資源 Langugae Resource

狭義ではテキストコーパス(text corpus)、辞書(lexicon)などの静的な言語データを指すが、広義では言語解析ツールなどのコンピュータプログラム類も含む。コンピュータや周辺技術の進展により、言語データの生成・蓄積・交換に対するニーズが高まっており、さらにデータ駆動的なアプローチによる自然言語処理が盛んになるにつれ、特にテキストコーパスの重要性が高まっている。このような背景のもと、ヨーロッパではELRA (European Language Resource Association)、北米ではLDC (Linguistic Data Consortium)、日本では言語資源協会GSK といっ組織が言語資源のカタログ化・収集、配布を行っている。また、日本の情報通信研究機構における言語グリッドプロジェクトでは、言語資源のWebサービス化が進められている。言語資源の流通や共有化においては、相互運用性(interoperability)が最重要の課題であり、このため、国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)におけるTC37/SC4という分科会において、言語学的概念の整理、言語データのモデル化方式や表現形式に関する標準化が進められている。

*ELRA http://www.elra.info/
*LDC http://www.ldc.upenn.edu/
*GSK http://www.gsk.or.jp/
*言語グリッドプロジェクト http://langrid.nict.go.jp/
*ISO TC37/SC4 http://www.tc37sc4.org/

言語政策 (1) language policy

言語政策は、国などの行政機関による言語文字に関する政策であり、国語、公用語、教育用語、正書法などの決定、標準語の普及活動、国民の読み書きの能力を高めるための活動などが含まれる。日本の言語政策としては、国語審議会及びその継承である文化審議会国語分科会が、文部大臣およびその継承である文部科学大臣の諮問に応じて、漢字の使用範囲、仮名遣い、敬語などについて審議し、その結果が公にされている。

言語政策 (2) Language Policy

言語政策とは、国語(国家語)や公用語の制定及び教育や普及、それ以外の言語への司法や行政の対応政策等を言い、標準的な文法や語彙、表記法や発音等への施策も含まれる。外国に対しても自国語の普及促進等を行うことがある。近代国家はほぼ例外なく多言語の話者からなるため、各言語に目配りした言語政策も欠かせないが、戦後の日本では国語表記関連の議論が大部分を占めてきた。今後広く言語政策全般に取り組む必要がある。

言語の進化 evolution of languages

人間が,他の動物とは異なり,どのようにして高度に記号化された言語体系を有するに至ったかは,古くから研究者の興味を引く問題であるが,言語中枢が内在化する脳の化石が極めて残り難いといった事情があり,最終解は得られないであろうというのが言語学者のこれまでの見解であった。しかし,近年になり,人間ゲノムの解析が急速に進んだことに伴い,遺伝子の観点から言語の起源が明らかになる可能性が開けてきた。1996年に,言語の進化(略称Evolang)に関する第一回国際学会がエジンバラ大学で開催されたが,Evolangは,その後2年に一回開催されており,進化生物学者,脳科学者,理論言語学者その他を巻き込む超学際的な学会として発展を続けている。そして,2002年にサイエンス誌に掲載されたHauser, Chomsky and Fitchの共著論文が,理論言語学者をさらに巻き込む起爆剤となった。進化のどの段階で人間が言語を獲得するに至ったかが解明されるのは,まだ遥か先のことと言わざるを得ないが,理論言語学が新たな段階に入ったことは確かである。

言語変種 variety

社会言語学の基本概念の1つ。言語は話者の出身地や職業、発話場面などの条件によって様々な表現形式を取る。この非均質な言語表現のうち、特定の特徴をもち、1つの体系を成す集合体を総称して変種と呼ぶ。変種は、次の5つに区別される。(1) 公的な場面でその言語使用が正しいと定められた国家単位の変種(国家標準変種)(2) 話者の所属する地域によって異なる変種(方言)(3) 話者の個人的な言語行動様式(個人語)(4) 話者の社会的な所属性(社会方言)(5) コミュニケーション状況の特異性(状況の変種=状況方言=スタイル)

語彙意味論 Lexical Semantics

語彙意味論の目的は単に語彙の意味を精緻に記述することではなく,むしろ語の意味の中からその語が現れ得る統語構造や形態を決定する意味特性を抽出し,それを適切に表示することを主眼とし,さらに,その意味表示と統語構造,あるいは統語構造を決定する項構造や事象構造との対応を一般化することをめざすものである。当然その前提として,語彙,特に動詞の意味が文の構造を決定する重要な要因であるとする考え方がある。古くはFillmore, C.J.の格文法において項の意味役割とその統語構造上の位置との対応関係を一般化しようとする試みがなされ,またその後の生成文法では意味役割を用いた統語分析も多くなされたが,そもそも意味役割という概念は動詞の意味に根ざすものであるにもかかわらず,あたかも個々の項に何らかの意味が付与されているかのように扱ったことに問題があった。現在の語彙意味論では動詞の統語的性質を決定する意味特性をCAUSE, BECOME, BEといった述語関数意義素として抽出し,それらを用いた語彙概念構造*を動詞の語彙記述の基盤とし,構文交替や語形成の分析をおこなうのが一般的である。1990年代以降,Levin, B. & M. Rappaport, を中心とする構文交替に関わる研究やそれとは独立に進められたJackendoff, R.による概念意味論,また,国内では影山を中心とする日本語の動詞意味論や語形成論が,語彙意味論の発展の推進力となったといえる。

公共性 Öffentlichkeit

とりわけユルゲン・ハーバマスの『公共性の構造転換』(一九六二年)以来、社会理論やメディア論で重視されるようになってきた概念で、公共圏とも訳される。個人の私的な空間とは対置される、誰もがアクセスできるような「公」の多元的で自由な言説空間を指し、各種メディアを通じて各人が相互に関係しあい意見交換する場として、特定の国家や共同体から一定の距離を保ちながら社会に働きかける一要素を形成する。政治的な意思決定や社会的排除の問題を考察する上でも不可欠の概念である。

構文文法 Construction Grammar

言語で繰り返し表現される一定の統語形式パターンに、特有の意味が慣習的に対応しているものを「構文(Construction)」と呼ぶ。この構文も他の語彙と同じく言語知識上大切な単位とみなすのが構文文法(Construction> Grammar)の考え方である。構文のサイズや具体性には様々なレベルがありうる(例:SVOOなどの抽象的なもの、慣用句などの定型表現的なものなど)が、典型的には構文内の語彙要素の意味を足しあわせた以上の意味が、構文全体の意味とされる。

国際英語 English as an International Language

言語政策等の文脈における「国際英語論」は、英語が特権的な地位を占めることを肯定する思想という意味合いが強く、それゆえにしばしば厳しい批判を受けるが、英語教育の概念としての「国際英語」はこの用法とは異なり、非母語話者の多様な英語に母語話者の英語と同等の価値を認める考え方を指すことが多い。母語話者を規範とする従来の言語教育の立場に対するアンチテーゼとしての性格を持つ。

古典の伝統 The Classical Tradition

ギリシア・ローマの古典の伝統は、西欧文学において、中世からルネサンスを経て、シェイクスピア、ラブレー、モンテーニュをはじめ、近代文学、現代文学に至るまで計り知れない影響を及ぼしている。Gilbert Highet, The Classical Tradition (Oxford, 1949) によれば、「今日の西欧は多くの点でギリシア・ローマ世界の継続」であるが、ギリシアのアエソポス(イソップ)寓話の例で分かるように、その伝統は西欧のみならず日本の『伊曽保物語』(慶長・元和年間)や『イソポのハブラス』(1953年)にまで及んでいる。

コンテクスト化の合図 contextualization cue

相互行為の社会言語学の主要な概念の1つ。ガンパーズ(J. Gumperz)は、相互行為の参与者は何通りにも解釈されうる発話をコンテクストに関連づけ、社会・文化的な前提を利用して推論し解釈すると考えた。その際にシグナルとなる働きをするものが「コンテクスト化の合図」であり、コード・方言・スタイルの切り替え(スイッチ)や慣用表現などの言語面、声の調子や大きさ、抑揚などのパラ言語、ジェスチャーや表情などの非言語行動が合図になりうる。したがって、社会・文化的な前提を異にする参与者間の異文化間コミュニケーションにおける誤解や摩擦には、コンテクスト化の合図が十分機能せずに異なる解釈が生じたことによる場合もあると考えるのである。

サイボーグ Cyborg

宇宙開発における人体と機械との融合の可能性と有利性を主張する論文(1960)で初めて用いられた語で、”cybernetic organism”の短縮語。人間が意識的に機械を操作して動かすタイプの「人間-機械系」とは異なり、人体と機械が一体化して動作するものを言う。マルクス主義的なフェミニスト学者ダナ・ハラウェイが「サイボーグ宣言」(1985)の中で、人間と機械、文化と自然、男と女などの二項対立を越える存在の象徴としてサイボーグを取り上げてから、政治的・文化的な意味を持つ概念となった。

サバルタン Subaltern

アントニオ・グラムシが「支配階級」の対として「サバルタン階級」という表現を用いて以来、「下層民」「従属階級」といった意味合いで用いられるようになった語だが、論者によってかなりそのニュアンスは異なる。ガヤトリ・C・スピヴァクは『サバルタンは語ることができるか』(1988)でインドの女性を「自らを語ることができない者」「他者の視点と言葉によって主体性を奪われた存在」として論じた。

自然言語処理 Natural Language Processing

人間が用いる自然言語をコンピュータによって処理するための方法論を研究する研究分野である。歴史的には主に言語理解をシミュレーションする人工知能研究の一領域として発展してきたが、近年では統計的な機械学習に基づくデータ主導型アプローチが盛んであり、コーパスや辞書といった言語資源 (language resource)との関連を深めている。また、言語学の細分類における計算言語学 (computational linguistics)とほぼ同意で用いられることもある。何らかの言語処理をコンピュータによって行うためには、自然言語表現とコンピュータ内部のデータ表現との相互変換を行う必要がある。すなわち、言語解析や言語生成を行う必要がある。言語解析には、文の形態論的・統語論的・意味論的解析や文を超えた範囲の談話解析が含まれる。とくに、形態論的・統語論的解析は、コンピュータサイエンスにおけるアルゴリズム論との関連が深い。生成については解析に比べて研究の蓄積は深くないが、言語理解の結果としての意味表現やデータベースや知識ベース中の形式的表現からの文やテキストの生成について研究されてきた。一方、コンピュータによる言語の処理は、目的とするシステムに応じたものが必要となる。その中でも特に、言語間の翻訳を行う機械翻訳 (machine translation)システムは、解析・生成だけでなく言語の変換を含む総合的なシステムであることから、自然言語処理技術の全体的な発展を牽引してきた。また最近では、Web上での情報の爆発を踏まえ、情報検索(information retrieval)などの情報アクセス手段を高度化するための自然言語処理の適用が期待されている。

シニフィエ、シニフィアン signifié, signifiant

ソシュールは『一般言語学講義』において、シーニュ(記号)をシニフィエ(概念)とシニフィアン(聴覚イメージ)から成る本質体であると規定している。シニフィエとシニフィアンは不可分であり、相互に依存する。言語記号は概念であると同時に音のイメージであると言い換えることもできる。ソシュール以降、シニフィエは指向対象と、またシニフィアンは物理的な音と混同されることもあるが、両者とも独立した実体ではなく、形相でしかない。

社会言語学 sociolinguistics

言語学と社会学にまたがる学際的な学問分野。その対象は、言語政策や言語計画といったマクロの問題から、会話分析などのミクロの問題にまで多岐にわたり複雑である。社会言語学は1960年代後半から1970年前半にかけて発展したが、その背景には、言語を社会的なコンテクストに依存させずに研究しようとするチョムスキー(N. Chomsky)の生成文法に対する批判と反省があった。当時、アメリカの社会言語学者達は、社会的なコンテクストの中での言語を研究し始め、ヨーロッパでは、社会問題を解決しようという意識を持つ研究者によって研究が推進された。

社会文化的アプローチと第二言語教育

社会文化的アプローチとは、人間科学や社会科学における一つの接近法である。同アプローチでは、発話と思考を含む人間の行為はそれが生起する文化的、制度的、歴史的文脈によって形成され、同時に人間の行為は道具や記号・言語などの文化的道具(cultural tool)に媒介されることにより形成され行使されると仮定する。近年、社会文化的アプローチに基づく第二言語習得研究が盛んに行われており、第二言語教育に対しても示唆を提供しつつある。

社会方言 social dialect

方言や個人語と同じく、ある言語の中の一変種。社会方言は、話し手の社会的所属性という条件に従って分類された変種を総称し、特殊語、専門語、グループ語、隠語を包括する上位概念。社会方言研究は、他の変種と同じく、1960年代後半から、言語の非均質性に注目した社会言語学者によって推進された。ある特定の言語共同体の地域的な違いによって生じる変種(方言)の他に、社会的なグループに特徴的な表現形式が確認され、これを示す用語として社会方言が用いられるようになった。その他、アクセントという用語が用いられることもある。

借用 borrowing

どのような言語であれ、新たな文化が流入する際には当然のように新たな語彙項目が借用される。借入には形式と意味の両方を借用する場合と意味だけを借りる場合がある。一般に前者を借用語と呼び、後者を「借用翻訳」として区別する。後者は、時として構文にまで及ぶことがあり、英 it goes without saying という構文はフランス語の借用翻訳である。

主体化 Subjectification

すべての言語表現には、客体的意味とともに認識主体の外界に対する認識のあり方、捉え方が意味として反映されているが、主体化とは、客体的な意味が薄れ、それに内在している主体の認識に関わる部分の意味が顕在化することである。例えばラネカーによれば、英語のbe going toが「意図」や「未来」を表すのは、「移動」という「客体的」意味に対して、「移動」に伴う主体の認知活動(行為の責任や結果予測など)がより大きく意味として現れることによる。

小学校英語 primary school English

小学校における英語教育の導入は世界的な動向だが、これは幼少期の特異な言語獲得能力を活かすことが目的で学問的根拠もある。但し、日本における小学校英語については批判が多い。日本語や思考の発達が阻害されるとする根拠のない議論もあるが、英語力の乏しい担任に教えさせるのが特に問題だ。欧州や近隣国では英語教員が教える。授業時数や生徒数、(文法構築につながる)教育内容の改善もあるが、英語力の高い教員の確保が小学校英語の成否の鍵となる。

情報検索 Information Retrieval

機械翻訳と同様、コンピュータによって情報を検索するというアイディアは古い。当初は、学術的な文献に関する情報を整理し、検索するという目的が主であった。このため、あらかじめ決められた語彙(controlled vocabulary)から、文献の主題を表すキーワードを付与し、これに基づく検索を行うというシステムが構築された。また検索要求は、キーワードの論理結合で表すという形式をとった。このスタイルは現在でも特許検索などで使われているが、コンピュータ上で蓄積されるテキストデータが増えるにつれ、テキストデータ自体を自由な検索語で検索する(free text retrieval)要求が顕著となり、このための検索方式が研究された。ここで特筆すべきは、TREC (Text REtrieval Conference) というコンテスト型のワークショップが1992年から開催されていることである。TRECではコンテストの参加者が共通のテストデータに対して検索性能を競いあい、この中で技術的方法論だけでなく、性能評価に関する基準も整備された。その後、インターネットが一般に利用されるようになった1990年代半ば以降の情報検索の主な対象はWeb検索となった。Web上では、コンテンツがハイパーリンクにより相互参照されるということが特徴的であり、従来のテキスト検索の技術の上にリンク構造の特徴を加味して検索精度を向上させる手法が開発された。この中でもっとも有名なのは、GoogleによるPage Rankという手法である。また、検索精度のさらなる向上だけでなく、検索結果の分類整理・要約、さらには特定の質問事項やブログ記事などにおける評価・評判情報の検索といった目的のため、自然言語処理技術を適用する研究が盛んにおこなわれている。

* TREC http://trec.nist.gov/

人種化 racialization

「人種(race)」は、肌の色のように固定した身体的特徴に基づく区分であると見なされがちだが、あらゆる人間を分類するというよりも、ある特定のグループを社会の下位に位置づけるための暫定的なカテゴリーであると言える。例えば19世紀のアイルランド系アメリカ人は、アフリカ系と同様に「有色」であるとされたが、やがて社会の主流となっていくことによって、何らかの人種に属しているとは見なされなくなった。このように、社会的・歴史的に人種が作り出されていくプロセスを指し示す用語が「人種化」である。

生成文法理論

マサチューセッツ工科大学のノーム チョムスキー(Noam Chomsky)の著書、The Logical Structure of Linguistic Theory (1955/1975)とSyntactic Structures (1957)からスタートした言語理論である。この理論の最終的な目標は、自然言語の研究を通して「人間の心(mind)」の働きを理解することにある。子供は、通常、生後18ヶ月から3歳までの約18ヶ月間で母語の基本的な統語構造を獲得するといわれているが、この間に子供が外界から得る母語に関する情報の量は限られている。チョムスキーは、子供がこのような短期間に、しかも情報量が乏しいなか母語を獲得できるのは、言語システムの基盤(普遍文法: Universal Grammar)が生得的に備わっているためであると主張している。生成文法理論は、個別言語の研究からスタートし、この言語獲得に関する問題と個別言語の特徴・言語間の差異をともに説明できる理論として、統率・束縛理論(Chomsky 1981)の名で知られる原理とパラメータに基づくアプローチへと発展した。更に、1980年代までの研究成果を基に、1990年代の極小主義プログラム(Chomsky 1995, 2000, 2001, 2004, 2008)へ移行した。(極小主義プログラム参照のこと。)

戦術 Tactics

ミシェル・ド・セルトーが『日常的実践のポイエティーク』(国文社、1987年)で、近代を特徴づける「戦略」と対照しながら提示した概念。非近代のもののやり方を指し、レヴィ=ストロースの「野生の思考」に等しい。セルトーによれば、戦術は時間の流れに伴う状況の変化に身を浸したまま、その持続的な流れのリズムを読み取って、ここぞという機会を瞬間的に捉え、記憶の断片を現実化してその瞬間の空間の配置にはめ込むブリコラージュを行うことによって、安定的な空間に変化を呼び込む。そこでは、記憶が効果的に利用される場としての時間が空間の安定性に亀裂を入れ、記憶による空間のブリコラージュという機転の一撃が介入する余地が生み出される。こうした戦術は、圧倒的な力をもつ相手と組んずほぐれつの状態の中にありながら、相手の動きを利用しつつ揺さぶりをかけ、一瞬の間合いに記憶の中の「わざ」を呼び出して相手との力関係の中に挿入し、当初は安定しているようにみえた相手との力関係を一瞬に逆転させる「柔よく剛を制す」やり方であるといえる。

戦略 Strategy

ミシェル・ド・セルトーが『日常的実践のポイエティーク』(国文社、1987年)で、「戦術」と対照しながら提示した概念。近代のもののやり方を指し、レヴィ=ストロースの「単一栽培の思考」に等しい。セルトーによれば、戦略は、近代科学のやり方、特にシミュレーションに代表されるように、環境の全体を対象化するための場を確保し、時間の流れに必然的に伴う状況の変化という不確定な要素からの独立性を確保しながら、その場の中で対象化した環境の全体を表象に変換して蓄積するとともに操作し、その操作の結果を環境に適用することで環境を管理、操作するようなやり方である。そこでは、時間という不確定な要素は空間という安定な場に翻訳され、空間に依拠する思考が時間の偶然を支配する。

相互行為の社会言語学 interactional sociolinguistics

ガンパーズ(J. Gumperz)によって文化人類学的観点、ゴフマン(E. Goffman)によって社会学的観点が導入され、言語学者シフリン(D. Schiffrin)やタネン(D. Tannen)らによって継承・発展された相互行為の社会言語学は、会話のやりとりのコンテクストと相互行為(インターアクション)的な特質とを重視して談話にアプローチする。分析に用いる概念と道具にはガンパーズによる「コンテクスト化の合図」、ゴフマンによる「フレーム」「フッティング」「参与の枠組み」等がある。言語使用を分析するこれらの枠組みを用いて、様々なセッティングのコミュニケーションにおける発話の持つミクロレベルの意味あるいは社会文化的な前提としてのマクロレベルの意味が分析されてきた。

単一栽培(飼育)の思考(科学的な思考)

レヴィ=ストロースが『野生の思考』(みすず書房、1976年)で栽培の思考と呼んだのは,抽象的な概念を使い、一貫した全体的な計画に従って世界を単一の基準のもとに記述して作りかえてゆこうとする近代に特有の思考のことであり、近代科学を生み出した思考である。レヴィ=ストロースは、この栽培の思考を「技師の思考」にたとえて次のように説明する。たとえば、機械を作るとき、技師はあらかじめ定めた計画や設計図に従いながら、その全体の計画にもとづいて唯一の機能や意味しか与えられていない「部品」を作り出し、その部品を全体の計画のとおりに組み立てようとする。つまり,栽培の思考は、技師が機械を作り出すように、あらかじめ決めた計画という一貫した単一の基準にもとづいて、部分から全体にいたるまで画一的に世界を組み立て、一貫して均一な秩序を生み出そうとする思考のことなのである。

直示 deixis

基本的には言語外世界にある指示対象を、無標的には発話場面(発話者、発話時、発話場所)を基準軸にして指示すること。「私/いま/ここ」などが典型的な直示表現であるが、「前/後ろ」、テンスなどにも直示が関連する。さらに、指示表現ではないが、発話場面が使用条件に関与する「行く/来る」なども直示の問題として議論されることがある。直示は、無標的には発話場面を基準にしておこなわれるが、引用構文のように、発話場面が複数、想定される場合、また、「前/後ろ」のような語彙の場合には、基準軸が移動する場合がある。なお、指示対象が言語内世界に留まる場合は特にテクスト直示とされることがある。

ディアスポラ Diaspora

「離散」を意味するギリシャ語‘diaspeirein’(dia ‘across’ + speiren ‘scatter’)を語源とし、もとはパレスティナから離散したユダヤ人、バビロニア捕囚をさす。現在では、故国を離れ、異なる土地で生活を営む移民、国外離散者を意味する用語として広く用いられる。大英帝国支配時代にカリブ、オセアニア、アフリカなどの植民地に年季奉公労働者として送られたインド系移民の末裔など、ポストコロニアル理論や文学、言語文化変容論において鍵となる概念である。

転移

本来は精神分析の用語。無意識の欲動や情動が一定の対象関係のなかである対象に対して現実化される現象を言う。特に、分析治療で情動が治療者に振り向けられ、現在のものとして体験される場合を指して用いられる。転移は治療の抵抗となる場合もあれば、治療を促進する触媒となる場合もある。治療的な枠組みの外部でも、社会や組織や個人間の関係の至る所で転移を認めることができる。陽性のものと陰性のものが区別される。このプロセスでは、情動が本来の表象から別の表象へと遷移する。情動が振り向けられる対象とは別のところに情動の本来の起源があることを示唆する概念であるため、転移現象への注目は現代社会において安易な称賛や告発への盲信を戒める意味合いをもちうる。

伝達的記憶 Kommunikatives Gedächtnis

ドイツのエジプト考古学者ヤン・アスマンがモーリス・ハルプヴァックスの集合的記憶の概念をより明確に理論化した際に用いた記憶概念の一つであり、特に個人的記憶の範疇にとどまる記憶をさす。その継承は長くても100年程度で、もう一つの「文化的記憶」とは区別される。

帝国主義 Imperialism

1858年に”imperialism”という英語が登場した(OED)19世紀では、主に帝国主義は、「帝国(empire)」を皇帝の支配領域として極めて軍事的・政治的な支配という意味合いを持つ言葉として使われてきたが、20世紀になってマルクス主義の立場から経済支配の側面に光が当てられ、そして今日では文化支配をも含めて帝国主義という言葉が使われるようになっている。すなわち、帝国主義とは、軍事的・経済的に優位にある国が、他の国や民族をその軍事・政治・経済・文化システムに取り込んでいく政策を推し進める主義のことである。

特質構造 Qualia Structure

語彙の意味のうち,概念構造で表されるような中核的意味ではなく,いわゆる世界知識に属する百科事典的意味は,従来語彙意味表示として形式化されることなく,たとえ文法現象に関わることがあっても語用論の問題として片付けられていた。しかし,構文の決定はLCSで表される動詞の意味によって一義的に決定されるとは限らず,共起する要素の意味,それも百科事典的意味によって影響されることが多々ある。Pustejovsky (1995) The Generative Lexicon はそのような語彙の意味を系列的関係と統合的関係に整理し,特質構造という表示レヴェルで形式化することによって,語彙意味をより精緻化するだけではなく,文中で共起する要素との関係で合成的に意味が形成されていくメカニズムを提案している。特質構造は,本来モノの性質の本質的な側面を表したもので,概略以下のような4つの役割からなるとされている。1.構成役割(Constitutive role) モノとそれを構成する部分や材料・成分など内的な性質,2.形式役割 (Formal role)モノを他のモノと区別する外的属性,3.目的役割 (Telic role)モノが本来的に意図された目的や機能,4.主体役割 (Agentive role)モノの起源や発生についての性質。具体例としてbookという名詞の特質構造を考えると,これらは以下のように表記される。まず,構成役割は紙であると同時に情報を有するものであり,形式役割は人工物(artifact)である。目的役割は読者wがその情報yを読むことであり, 主体役割は著者zが情報yを書くことだということが示されている。

構成役割:paper(x)・information (y) 形式役割:artifact (x・y) 目的役割:read (e, w, y) 主体役割:write (e’, z,y)

このような意味表示を用いれば,たとえば,本来イベントを項とするbeginがHe began a bookという文に現れることを許し,さらにこの文が,He began reading a bookあるいは, He began writing a book という意味に解釈され得ることもbegin とbookの語彙意味の合成によって説明することができるのである。

トランスナショナリズム transnationalism

国境という枠組みを越えて文化や社会を見直す視点は、Randolph Bourneの論文“Trans-national America” (1916年)のように、20世紀初期にその萌芽を認めることができるが、この傾向が本格化するのは1980年代以降のことである。コンピュータなど高い知的技能を持った働き手の移動、サービス業に従事する女性労働者の急増、特定の国家に帰属せず複数の市民権を保有する傾向など、これまでの移民とは異なる特徴を持った現代の人的移動は、国民国家を前提とした旧来の文化研究の在り方を大きく揺るがしつつある。

認知言語学 Cognitive linguistics

言語を人間の認知活動の一つととらえ、主として意味を研究対象とする言語研究。言語学の1分野というより、統語論を中心とした生成文法の研究に対抗する形で意味論や語用論の研究を行う、言語学派の研究をこう呼んでいる。アメリカ西海岸(カリフォルニア大学バークレー校やサンディエゴ校など)の大学を中心に発展してきた。メタファーやレトリックといったダイナミックな言語の生産活動を扱うことに特徴がある。ジョージ・レイコフやロナルド・ラネカーなどが代表的な研究者である。

発話 utterance

文は、ある内容を文法に則り言語化したものであり、文字どおりの意味をもつ。しかし、たとえ同じ形をした文でも、実際に発せられると、それを発する時や人や場などによって異なる意味をもつ「発話」となる。文トークンである発話がもつ意味は、発話のコンテクストに応じて、言外の意味である含意としてさまざまな可能性がある。このような意味の不確定性をはらむ発話では、意味論的な正しさというより、語用論的な発話状況における適切さが求められることになる。

発話行為 speech act

オースティン(J. L. Austin)は、発話することは具体的な行為の遂行であるとした。「発話行為」では、ことばを音声にして発する具体的な発語行為(locutionary act)により、話し手の発話の意図が発語内行為(illocutionary act)として示され、それは力(force)をもって聞き手に対して影響を与える発語媒介行為(perlocutionary act)となる。「ありがとう」と言えば、感謝を表明し、結果的に相手の気持も和ませることになる。間接発話行為(indirect speech act)の場合は、発話に隠された話し手の意図である含意を聞き手が推論する。「ちょっといい?」と言われて、どういうつもりか勘ぐってしまうように。

フェイス face

ポライトネス理論の主要概念の1つ。ブラウン&レビンソン(P. Brown and S. C. Levinson)はゴフマン(E. Goffman)のフェイス概念を発展させ、フェイスの尊重を社会的な規範や価値観としてではなく「社会的なセルフイメージ」と定義し、基本的な欲求として扱う。フェイスには、他人に正しく評価されたい、認められたいという欲求であるポジティブフェイス(positive face)と、自分の行動や領域を侵害されたくないという欲求であるネガティブフェイス(negative face)の相反する2種類があるとされ、相互作用の中で人々は絶えずフェイスに注意を払い、フェイスをたてるよう協力し合うとした。

普遍文法 universal grammar

世界の言語は,表面的な様相こそ多種多様であるが,人間言語として,どの言語にも共通する特質を有していると考えられる。理論言語学の領域において,依拠する理論の枠組みによって程度差があるものの,普遍文法の追求は研究目標の一つとして設定されていると言える。理論言語学の中で,普遍文法の探求を最も前面に打ち出しているのが生成文法理論である。例えば,子供が,1歳半から3歳くらいまでの間に,周囲で話されている言葉の総量を遥かに超える言語知識を獲得するという事実(「刺激の欠如(poverty of stimulus)」の問題)がある。このことを説明するためには,子供は,生まれながらにして,どの言語にも共通する部分と,例えば,句(phrase)を構成する主要部が前にくるか(前主要部[+head-initial]),後に立つか(後主要部[-head-initial])という+/-の二者選択のうちいずれを選ぶかというパラミター(parameter)からなる普遍文法を仮定する必要があるとされている。

プロソディー

声の高さ,長さ,強さで表される音声の要素,すなわちアクセント,イントネーション,リズム,ポーズなどの総称。プロソディーには言語を超えた共通性もあるが,言語による違いも大きく,特定の言語や方言に特徴的な話し方を形づくっている。したがって,その適切な使い方を知ることは言語習得の上で非常に重要である。また,プロソディーは話し手の心理状態や身体的状態,聞き手との関係や聞き手への態度,場面に応じた話し方(スタイル)など,言語そのものではないがそれに準ずる「パラ言語」の機能も担う。

文化的記憶 Kulturelles Gedächtnis

ヤン・アスマンが集合的記憶論の展開において定式化した記憶概念の一つ。「文化的記憶」の場合、個人の記憶に限定される「伝達的記憶」とは異なり、同時代の生き証人の有無にかかわらず伝達される記憶を意味し、複数性、可変性、社会性、共有性、選択性を特徴とする。その際、文化的記憶を伝達する装置として、文字文化はもとより、記念碑、記念日、儀礼、国旗や国歌などに至るまで無数にあるが、不断に相対化が進む今日においてはむしろ、提起される問題の普遍性をいかにして担保していくかが課題であろう。フランスの国民史を題材としたピエール・ノラらの「記憶の場所」論との親和性が高い。

文化変容 Cultural Transformation, Acculturation

異文化どうしの接触によって、一方の文化が他方の文化から影響を受け、その内容を変化させること。異文化の接触については、異なった文化を持つひとびとの集団どうし接触のほか、言語文化学においては、文学作品などの翻訳も異文化接触に含めて考える。文化が変容する場合、異文化接触により単に受動的に変容する場合のみならず、影響を受けている方の文化が、積極的に自文化の伝統の中に異文化を再編成して受容することがある。

文法化 Grammaticalization

文法化とは語彙に見られる歴史的な変化で、動詞・名詞などの内容語が助動詞・前置詞・助詞などの機能語の働きをするようになり、元の語彙的意味を失う現象。英語助動詞willは意志を表す本動詞であったが、現在・過去の二つの時制変化形しかなかった動詞体系の空隙を埋めるかたちで未来を表すように変化した。完了形に用いられるhave は「持つ」という意味の本動詞が、目的語の修飾語であった過去分詞の再解釈に伴い、完了相の助動詞に変化したもの。文法化の現象は認知言語学で注目され、各国語で総合的に研究しようとする動向が見える。

ポストコロニアル Postcolonial

文字通りには「植民地独立後」の意味。しかし、「ポストコロニアル社会」や「ポストコロニアル文化」には、一般に過去の植民地支配の強い影響が残される一方、脱植民地化運動の多くは植民地時代に始まっている。また、植民地主義が植民者側の文化に与えた影響や、植民地支配と現代のグローバリゼーションとの関連という問題も無視できない。「ポストコロニアル理論」や「ポストコロニアル研究」は、時期的・地域的な区分を踏まえつつも、より広くは、植民地主義ないし帝国主義が生み出した世界の権力構造という視点を軸に、近現代世界の歴史や社会や文化を再解釈する試みといえる。

ポライトネスの普遍性理論 politeness theory by Brown & Levinson

ブラウン&レビンソン(P. Brown and S. C. Levinson)は、ポライトネスを敬語のようないわゆる丁寧さとして想起される距離を置くネガティブポライトネスだけではなく、接近指向のポジティブポライトネスも含めた広い概念として捉え、言語行為はFTA(face threatening acts)になりうるため、理性ある人は社会的距離、力関係、その行為が当該文化において持つ負担の程度の総和からフェイスへの侵害度を評定し、FTAを回避するかその脅威を軽減させるためのストラテジーを採用するとした。そして、ポライトネスの現れ方は文化によって異なろうが、言語的相互行為にあたり相互のフェイスの保持が社会的に重要であることは普遍的であると主張する。

マルチカルチュラリズム Multiculturalism

マルチカルチュラリズムの運動や政策は、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパにおいて、冷戦終結後に出てきたものである。それは、社会はその社会に生きる異なった文化背景をもつ個人や集団を対等に扱うべきであるという主張であるが、社会の団結をどのように維持していくかという問題がある。また、ソ連崩壊後の世界で文化アイデンティティを守ろうとする勢力の台頭に対して、マルチカルチュラリズムの政策を掲げることによって、ドミナントな文化がそれらの勢力を懐柔し、取り込もうとしている一面も否定できない。

ミメーシス

ミメーシスは、模する、映すといった意味を核としながら領域横断的に用いられる構造記述のための概念。美学では、アリストテレス『詩学』に由来する形で芸術の本質規定とされてきた。模倣と創造とを対比させる考え方も根強いが疑問点が多い。社会学では、社会とは模倣であるとしたタルドの模倣説が知られるが、近年では「共感」や「感染」といった概念との関わりでも捉え直されている。ルネ・ジラールは、ミメーシス概念による独自の欲望理論を案出した。模倣は乳幼児の発達原理を示すものでもあるが、ミメーシス概念は人類の幼年期と言える時期の思考を指し示す形で文明批判にも用いられた。現在では、セラピーの臨床場面を捉え直す概念として用いられることもある。

メタ言語能力 metalinguistic abilities

言語は、通例、言語外の事象について語るが、言語自身について語ることもある。言語について語る言語をメタ言語 (metalanguage)、メタ言語によって語られる言語を対象言語(object language) という。メタ言語能力 (metalinguistic abilities) とはメタ言語を用いて対象言語について語る能力をいう。外国語教育の分野ではメタ言語能力の育成が当該外国語の習得を促進するか否かという問題が重要な研究テーマの一つになっている。

メタファーとメトニミー Metaphor and Metonymy

伝統的修辞学ではメタファーは事物の類似性に、メトニミーは事物の隣接性に基づく比喩と規定される。認知言語学では両者を概念レベルで捉え直し、メタファーは2つの概念領域間の、メトニミーは1つの領域内の写像であるとする。メタファーとメトニミーは時に密接に関連する。「はらわたが煮えくり返る」という表現の背景にある<感情>と<温度>の領域間のメタファー写像は生理学的な因果関係に基づく。<感情>領域の中に<体温の変化>を組み込めば「理不尽な仕打ちに熱くなった」は同一領域内のメトニミー写像の具現化といえる。

メンタルスペース理論 Mental Space theory

ジル・フォーコニエによって1984年(英語版は1985年)に提唱された言語理論。メンタル・スペースという概念を導入し、言語が表現する属性がどのような領域で有効なのかを厳密に規定しようとしたとこにその特徴がある。スペース間の要素の写像関係などが議論されたが、最近では異なったスペースの要素が融合され、全く新しい意味構造をうみだすブレンディングという現象に注目が集まり、ブレンディング理論として、言語学のみならず、人間の認知活動一般のモデルとして提唱されるようになってきている。

模倣 mimicry

ミーメーシスは西洋文学ひいては西洋文化を理解するための基本的な概念のひとつであるが、そこに含意されている(理想的)観念と現実、シニフィエとシニフィアンという二元論的構造が植民地主義的まなざしとある種の平行関係にあること、また、まさにそうした関係を超克するために案出された表象(representation)の概念が、必ずしもオリエンタリズムを解消しないことなどが、文化理論において批判を受けつつある。そのような背景のもとに、シニフィアンの模倣という行為によって、コロニアルな認識の構造を無化しようという戦略が、バーバ(Homi Bhabha)が理論化しているところのmimicryという概念である。

野生の思考

レヴィ=ストロースが『野生の思考』(みすず書房、1976年)で野生の思考と呼んだのは、その時その場で使うことのできる具体的な記号をさまざまな基準が入り交じったままで使うことによって、その時その場の必要性に応えようとするような思考のことで、新石器革命をもたらした思考である。レヴィ=ストロースは、この野生の思考を「ブリコルールの思考」にたとえて次のように説明する。ブリコルールとは、ブリコラージュする人のことであり、ブリコラージュとは、、「まだ何かの役に立つ」という原則で取っておいた半端物などの雑多なもちあわせを材料に、その時その場の状況に応じて必要なものを作る「間に合わせ仕事」のことである。つまり、野生の思考とは、基準がばらばらのままの断片をとりあえずうまく組み立てることによって、一貫してはいないが、その時その場で必要なものを作り出そうとする思考のことなのである。

用法依存モデル Usage-based Model

言語表現の実例を元に、話者の言語知識が組み立てられると考えるモデル。話者は実際に経験した複数の実例から、一般的認知能力を元に共通性(スキーマ)を抽出し、その表現用法を知識として定着させる。スキーマから新たな拡張表現を生み出すこともある。このモデルでは使用頻度との関わりも積極的に考慮に入れ、言語表現の創発や衰退等の動的側面も捉える。高頻度の用例は昔の形式を保持しやすく、個々の頻度は低くても多くの語彙項目が類似形式で生じる場合には、抽象度の高い構文レベルで定着し、生産性が高くなる。

力動性 Force Dynamics

Talmyが導入した概念で、それによれば人間は様々な事象を認知するにあたって、主動子agonistと拮抗子antagonistの間の力関係に基づいて力学的に構造化して捉えて言語表現化しているとされる。使役や法助動詞が典型的なケースであるが、例えばMary must accept this decision. という例では、「この決定を受け入れたくない」というMaryの内在的な傾向性(agonist)があり、一方でその力に対立して「受け入れさせようとする」力(antagonist)が働いているというように分析できる。

理想化認知モデル Idealized Cognitive Model, ICM

人間が日常諸々のことを経験・理解する中、周囲の人や物、環境や出来事や文化などに関して形成する要素と関係で捉えられた構造化された知識のこと。「理想化」とある通り、このような知識(フレーム、スクリプト、民衆理論などもよく同義的に用いられる)はプロトタイプとしての知識であり、日々の新しい経験の理解は、言葉の理解も含めて、理想化認知モデルをプロトタイプとする意味づけ(カテゴリー化)の営みだと考えられる。

類像性 Iconicity

Haimanなどが発展させた考え方。意味と形式の間に類像的な対応が見られることを言う。数量的に単数よりも多いことを表す複数は、言語表現においても単数よりも長いことが多いがその逆は原則としてない。また、言語表現間の距離の遠近は、表現間の意味的な関係の密接さと対応している。例えばフランス語では移動を表す動詞が前置詞なしで不定詞を従える場合は、その不定詞の表す行為の実現が含意されるが、前置詞がある場合はその実現は含意されない。

レジスター register

ある言語変種の内、その使用法によって区別される変種。言語表現が使用される社会的、状況的枠組みにおいて、話者がその役割を変化させながら用いる言語変種の総称。ハリディ(M.A.K. Halliday)はレジスターを規定する3つの異なる次元を区別した。すなわち、コミュニケーションの目的と主題に関わるフィールド、その手段に関わるモード、そしてパートナーの社会的関係に関わるテナーである。たとえば、手紙の書き出しの一例として「拝啓」と「こんにちは」があるが、これらはフィールドとモードは同じだが、テナーが異なるためにこの差が生じると考えられる。