新任教員

2024年度に人文学研究科言語文化学専攻には、新たに8名の専任の先生方が着任されました。ご経歴とご専門について紹介していただいています。

コミュニケーション論講座講師 井坂ゆかり先生

 2024年4月に言語文化学専攻コミュニケーション論講座に着任しました、井坂ゆかりと申します。

 専門はドイツ語学です。東京外国語大学外国語学部のドイツ語専攻に入学し、4年間ドイツ語を学んだあと、同大学大学院にて、現代ドイツ語の人称代名詞の用法について研究し、修士号、博士号を取得しました。院生時代に1年間、ドイツのマールブルクに留学もしました。ドイツ語は研究対象であると同時に、自分にとって大切な人生の一部でもあります。学部の全学共通教育では、ドイツ語の授業を担当しています。授業で一通り基礎語彙と文法を学習したら、簡単な日常会話ができ、辞書片手に短い文章が読めるようになります。せっかくなのでドイツ語圏に留学してみるのも良いと思いますし、留学は難しいという人も、ぜひ長期休みや卒業旅行の機会に現地に遊びに行ってみてほしいです。ほかのことが忙しくなると、ドイツ語自体はいずれ忘れてしまうかもしれませんが、ことばについて気付きを得たり、勉強仲間と話し合ってみたり、語学の授業が実りある学びの場のひとつであれば幸いです。

 私は子供の頃、読書が趣味だったので、ことばに対する興味は昔から強かったように思います。大学入学後、言語学関連の授業を中心に履修してからは、すっかり言語の分析の虜になってしまいました。空き時間に図書館で言語学関連の入門書を読み漁り、学部のゼミ選択でドイツ語学のゼミを志望しました。好奇心とやる気を頼りに、先生方、先輩方に温かく見守っていただきながら勉強を続け、駆け出しの研究者になりました。 振り返って、大学・大学院での勉強期間は、自分にとって意味のあるものを見つけ、それについて突き詰めて考えることのできる貴重な時間でした。大学生活を送るみなさんには、ぜひご自身の興味の赴くまま、たくさんの知識に触れてみてほしいです。

 言語を研究する手法は色々ありますが、私はできるだけ実例分析を中心に行うようにしています。私たちが何を言語化し、構造化し、話題としているのか、実例に目を通していると、人と人とがコミュニケーションをとる際、何を重要視しているのかが浮かび上がってきます。大阪大学大学院では、2025年度から語用論研究の授業を担当予定です。みなさんとお会いするのを楽しみにしています。

第二言語教育学講座講師 Kim Miso先生

 2024年10月に着任し、言語文化学専攻第二言語教育学講座・英語部会に所属しております。私は言語、文化、社会、権力の交差点を旅する応用言語学研究者です。韓国で生まれ、多文化家庭で育ち、アメリカで博士号を取得後、2020年から日本で英語教育に携わってきました。現在は香港出身の配偶者と日本語でコミュニケーションを取る韓国人として生活しています。

 常に多言語・多文化が交錯する環境で過ごしてきた経験から、言語と社会、文化、権力、アイデンティティの結びつきに強い関心を持つようになりました。修士課程では多文化家庭の学生(韓国で移民背景を持つ生徒を指す用語)の言語学習について、博士課程では就職活動生の英語学習に焦点を当て、学習者のアイデンティティと言語の関係、また英語と権力の関係に対する学習者の認識と対処方法について研究を行ってきました。

 現在は、トランスランゲージングと多様性を活用した英語教育、および第二言語教師のアイデンティティに関する研究を進めております。トランスランゲージングは、言語能力やコミュニケーション戦略、経験、態度、異文化理解などを含むコミュニケーション・レパートリーの拡充を目指とします。単なる言語運用能力の向上にとどまらず、世界中の多様な人々との出会いにおいて、自身のレパートリーを効果的に活用し、相手を理解し尊重し合えるコミュニケーションを実現するための英語教育方法の開発に取り組んでいます。

 また、言語教師のアイデンティティは教育実践と密接に結びついています。教材の選択、例示の方法、学生とのやりとりなど、すべては教師自身が築き上げてきたアイデンティティを反映しています。この観点から、協同的オートエスノグラフィーの手法を用いて、教員のアイデンティティと教育実践に関する研究を展開しています。

 東京から大阪への移住後、大阪と大阪大学での新しい環境に馴染みながら、充実した日々を送っています。授業、研究室作り、関西弁の習得など、日々新たな発見と学びの連続です。今後も人文学研究科の皆様とともに、研究と教育に情熱を持って取り組んでまいりたいと思います。

I am an applied linguist exploring the intersections of language, culture, society, and power. I was born and raised in Daegu, South Korea and moved to Seoul for my college studies. In Seoul, I immediately realized that I had to correct my Kyeongsang dialect, because a girl speaking the dialect in Seoul was singled out for being ‘cute’. Giving up my mother tongue, I quickly learned to speak Seoul dialect and invested in speaking English, believing that it would take me somewhere. During my junior year, I came across a research paper investigating how motivation, identity, and gender relate to second language learning, which led me to study applied linguistics in my master’s and doctoral studies.

I have lived through intersections of language, culture, society, and power; so did my research and writing. I stepped into this career exploring Damunhwa students’ (directly translated as multicultural students, but meaning students with migrant backgrounds in Korea) language learning and identities, just because I also grew up in such a family and struggled with establishing my identity in my teenager period. During my Ph.D., I was interested in how language and language competence get exchanged for symbolic or material profit. My dissertation delves into how Korean jobseekers navigate the social pressure to speak fluent English, and what resources they use to improve their English skills for job market preparation. After my arrival in Japan in 2020, I found myself struggling with negotiating my teacher identity and teaching English with awareness of diversity here, both of which evolved into my current research topics. Recently, I am writing about how to promote translanguaging for social justice in language classrooms and how language teachers’ transnational identities and lived experiences shape their pedagogy.

Besides research and teaching, I love to read, write, eat, and travel. My love for reading and writing led me to publish two essay books on language learning in Korean, and my dream is to publish or translate the books in Japanese as well. I love eating and traveling around, so I look forward to exploring great dessert shops and travel destinations in Kansai.

言語認知科学講座准教授 木本幸憲先生

 初めまして、2024年10月から人文学研究科言語文化学専攻でお世話になることになりました、木本幸憲と申します。私は、フィールドワークを基盤とした言語研究を中心に行っています。私の調査地はフィリピンで、ルソン島の北部で話されているアルタ語(Arta)と、その近隣で話されているカシグラン・アグタ語(Casiguran Agta)、ブッカロット語/イロンゴット語(Bugkaloto/Ilongot)などを研究しています。

 フィールド調査の魅力の一つが、言語を多面的に考えることができる点です。例えば、ある言語がどのような地域でどのような人々によって用いられているかを知ることは、言語調査の第一歩ですが、調査の第一歩は社会言語学を実践する必要があります。また文法現象にしても、その名詞はどのような派生形が見られるか、格標識のパターンはどうなっているか、時制・アスペクト・モダリティはどのように表されるかなど、やることは盛りだくさんです。そして今も分からないことだらけです。

 このような研究をしている私ですが、英語学、認知言語学からスタートし、対照研究、言語類型論、フィールド言語学とスコープを広げていきました。私の根本的な興味は、言語が認知や言語使用とどう相互作用しているのか、そして社会や文化と関わり合っているのかを探ることにあります。したがいまして、言語認知科学講座に着任できたことは素敵な縁だと感じると同時に、多くの素晴らしい言語研究者とともに仕事ができることを大変うれしく思います。研究指導の上でも、さまざまなバックグラウンドを持った院生さんに出会い、多様な研究に触れられることを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座助教 黄 晨雯先生

 2024年4月に言語文化学専攻理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました黄と申します。着任後半年が過ぎましたが、改めてよろしくお願いいたします。専門はデジタルヒューマニティーズやコーパス言語学などです。

 学部時代は上海師範大学で日本語を専攻し、日本文化、特に日本のサブカルチャーに強い関心を持ち、日本への留学を志しました。大学卒業後、日本語学校を経て、大阪大学大学院に進学することができました。当初は第二言語教育分野を中心に研究を進める方針でしたが、入学後にコーパス言語学や自然言語処理の授業でプログラミングとテキストの量的分析方法を学ぶ機会があり、テキストマイニングや機械学習に関心を持ち始め、人文情報学の研究に取り組むようになりました。

 これまでに、トピックモデルという機械学習手法を用いて様々なテキスト分析を行ってきました。たとえば、1940年代に活躍した中国推理小説作家の程小青と、21世紀の著名なミステリー作家3名の作品を対象にLDAトピックモデルを適用し、時代と共に変化するミステリー要素の違いを検討しました。この分析は、作品に潜在するトピックの違いや変化を客観的に捉えるための有効な手法であることを示しています。また、博士論文では、日本のウェブ小説のタイトル、あらすじ、本文から成るビッグデータを自然言語処理の技法で分析し、ウェブ小説のトレンドを解明することに成功しました。遠読とミクロな分析を結びつけ、従来の質的分析に比べ、より高い客観性を持つ解釈を提供しています。最近は新しい大規模言語モデルを適用し、新たな研究方向を模索しています。

 2022年に博士を取得しましたが、そのまま研究を続けるのではなく、2022年4月からIT企業でシステムエンジニアとして勤務し、2年間にわたりウェブシステムの開発に従事していました。学生時代からコーパスの開発やデータベースの構築に興味があり、これらのスキルを磨くために民間企業での経験を積みました。その過程でシステム設計やプログラミングの知識を深めることができました。2024年4月からは大阪大学人文学研究科の助教として学術研究を再開しました。着任以降、多くの先生方や人事・学務の皆さまに大変お世話になりましたが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座講師 杉本侑嗣先生

 2024 年 4 月に言語文化学専攻理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました杉本と申します。

 研究の中核にあるのは、「言語の科学」です。特に個別言語を実現可能にする人間の認知機能・神経基盤に興味があります。具体的には、機能的 MRI (Functional Magnetic Resonance Imaging), 脳磁図 (Magnetoencephalography), 脳波 (Electroencephalography) などの脳機能イメージングを使用して、言語使用時の人間の脳活動を計測し、計算言語学や自然言語処理で提案された計算モデルを通じて、人間言語の、特に統語レベルの神経基盤の解明を目指しています。近年では、言語学、神経科学と自然言語処理の融合的研究が進み、私自身も計算神経言語学という比較的新しいアプローチを取り入れ、「言語の科学」を探求しています。 大学受験時代に東京大学の酒井邦嘉先生の著書である『言語の脳科学: 脳はどのようにことばを生みだすか』(中公新書)を読んで、ヒトの言葉を脳科学で研究できるということに興味を持ち、大学進学後に言語学の授業を受けたのが、研究の道へ進んだきっかけだったと思います。学部時代は、認知言語学や社会言語学を学びました。特に構文文法に興味があった時期で、Goldberg 流 Construction Grammar, Berkeley Construction Grammar や Sign-Based Construction Grammar の研究に興味がありました。修士時代には生成文法の枠組みで本格的に研究を始め、博士課程は米国ミシガン大学アナーバー校に進学し、研究に励みました。在学中に、指導教官との死別、新型コロナウイルスなどの影響で散々でしたが、新たな指導教官らのもとで、クレオール言語の研究、ブラジルポルトガル語の補文標識の研究を中心に機能範疇の研究を行いました。特に分散形態論と Hagit Borer による Exoskeletal Model を融合したモデルを採用した研究を行いました。クレオール言語はクレオール言語の元となる複数言語からなるハイブリット機能範疇を形成するという提案を基に、言語の普遍性と多様性の問題の一部を検証しました。また、オンライン会議の普及によって、国際研究チームが組みやすくなり、所属にかかわらず、様々な研究者と共同研究をする機会を得ることができ、現在も継続的に複数の共同研究チームでの研究に励んでいます。帰国後は、ポスドクとして、fMRI/MEG 解析を通じた言語理解の研究に従事し、神経科学、自然言語処理などの融合研究にも従事しました。ここでも研究室のボス、院生との交流を通じて、共同研究の楽しさを改めて実感しました。

 こうして書き出してみると、具体的な研究テーマや興味関心が変わっているように見えますが、「言語の科学」という軸はずっと変わってないのかなと思いますし、これからも分野にかかわらず、さまざまな研究者・学生と一緒に「言語の科学」を追求できればと思っております。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

第二言語教育学講座講師 Corentin BARCAT 先生

 2024年4月に大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻第二言語教育学講座に着任しましたバルカ・コランタンと申します。専門はフランス語の話し言葉です。研究に直接関わる分野は音韻論、社会言語学、話し言葉コーパスの分析などです。

 博士前期課程ではフランス語の話し言葉によく見られる音の脱落(/ə/の脱落、三人称il(s)・elle(s)の/l/の脱落、語末の/l/・/ʁ/の脱落)を研究しました。

 博士後期課程ではフランス語でしょっちゅう省略される否定辞のne・n’を分析しました。5つのフランス語母語話者コーパスと1つの日本人フランス語学習者コーパスを分析しました。社会言語学的なヴァリエーションに関心があり、話し言葉コーパスを分析する際に、フォーマルな状況とインフォーマルな状況で何が異なるのか、何が不変なのかを常に考えます。例えば、博士論文で分析した5つのコーパスはコミュニケーション状況が様々で、1)友達同士・家族内での録音、2~3)研究者との面接、4)ニュース番組での政治家のインタビュー、5)(同じ)政治家の演説を分析しました。この多面的な分析のおかげで、ne・n’の省略に関しては例えば、1~4の状況と5)の状況で、母語話者の話すフランス語が大きく異なることが分かりました。

 博士前期課程の時から複数の母語話者の話し言葉コーパスと学習者の話し言葉コーパスの作成に関わり、人が口にしていることを文字にする作業が、研究の面でも教育の面でも、非常に勉強になりました。人間は自分の母語を話している時、どのように話しているのかを必ず意識しているわけではないので、勘だけで判断せずに、コーパスを分析することが非常に重要であると思っております。自分でもコーパスを分析する際に、驚くような結果が現れたりしますが、それが新しいことを知るきっかけにもなります。

 出身はフランスのトゥールです。フランスの大学ではジャーナリズム、社会学と歴史学を勉強しました。そして、昔から外国語に興味があり、中学校では英語とスペイン語、高校ではイタリア語、大学時代には独学で日本語を勉強しました。子供の頃から日本や日本の文化に関心があり、2012年に来日しました。最初は日本語学校でひたすら日本語を勉強しました。そして、2015年に研究生として東京外国語大学に入学し、言語学を初めて学び、翌年に博士課程前期課程で研究を開始し、2018年に博士後期課程に進学しました。2012年から2024年までずっと東京に住んできましたので、関西での生活は初めてですが、新しい環境で生活するのがとても楽しいです。

 時間がある場合は運動します。子供の頃は柔道、テニスとバドミントンをしていました。今は週に2・3回ぐらいジムに通い、主にランニングします。スポーツを見るのも好きなので、試合やスポーツ番組のポッドキャストをよく聴きます。歴史、特に世界史のポッドキャストも聴きます。週末は友達とゲームやボードゲームをするのが大好きです。又、音楽が好きで、子供の頃からピアノを弾いています。特にショパン、ドビュッシーやモーツァルトの曲が好みです。どうぞよろしくお願い致します。

理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座准教授 八木堅二先生

 2024年4月に理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました八木堅二です。よろしくお願いします。

 私は中国語を専門の言語とし、特に言語地理学や方言のフィールドワーク、文献調査などの手法を用いて研究を進めています。中国語というと「普通話」と言われる標準中国語を思い浮かべる方が大半かと思いますが、14億の人口を擁する中国では数多くの方言が話されており、中国語とは異なる民族言語も多く存在しています。広大な土地で話されている中国語方言は発音も語彙も文法すらも標準語とは大きく異なる場合があり、互いに話が通じないこともよくあります。標準中国語ではすでに失われてしまった古い中国語の特徴を方言が保存していたり、逆に今後標準語でも起きるかもしれない変化を方言が先取りしている場合もあります。中国語とは何かを考える時、方言を無視し標準語だけで議論を終わらせることはできないのです。また非常に多くの方言が存在しているため、さまざまな言語変化や言語現象を観察する事ができます。中国語方言の研究は人類の言語に普遍的な現象や地域に特徴的な現象を理解するためにも役立つことでしょう。また東ユーラシアにあって長期にわたり日本語を含む多くの言語と接触・交流して来たことから、周辺言語の理解にも寄与するのみならず、世界の言語の歴史を知る上でも重要な役割を果たすと考えられます。言語の歴史を知るという点では古くは金文・甲骨文に及ぶ文字資料を豊富に有する事も当然ながら大きな利点と言えます。

 これらの膨大な資料に精通し、正確な理解に基き議論を展開して行く事は決して簡単ではありませんが、デジタル技術の急速な発展により二十世紀には思いもよらなかった研究も今は可能となっています。様々な新しい技術にも目を配りつつ、人間としての感覚や思考を大切にして地道に研究を続けて行きたいと私自身は考えています。

コミュニケーション論講座准教授 劉 驫先生

 このたび、言語文化学専攻コミュニケーション論講座の教員として着任しました、劉 驫(りゅう ひょう)と申します。当ページをご覧の方の中には、博士前期課程および後期課程に興味をお持ちの方も多いかと思いますので、ここからは、指導可能な研究分野と、大学院での指導経験について簡単に紹介します。

 まず、指導可能な研究分野についてです。これまで、私は主に理論言語学(特に語用論、認知意味論)の立場から、指示語用論、対人語用論、語用論的意味などのテーマを中心に研究を進めてきました。主たる対象言語は中国語ですが、日中対照研究も行っています。そのため、理論言語学の観点から中国語の研究や、日中対照研究に取り組む予定のある方の指導が可能です。

 次に、大学院における指導経験についてです。2019年10月から2024年3月まで、九州大学大学院地球社会統合科学府にて博士論文5篇(副査)、修士論文6篇(うち主査4篇)の審査を担当しました。また、神奈川大学大学院人文学研究科では、学外委員として博士論文の審査(副査)を行った経験もあります。具体的に言えば、日本語のSNSなどに見られる「かよ」の非典型的な用法(たとえば、「公式のグッズかわいいかよ、これは課金しかないね!」)や、中国語の“但是”、“不过”、“可是”(日本語の「しかし」や「でも」に類似する表現)の手続き的意味について関連性理論のアプローチから研究を行った学生もいれば、談話モデル理論を用いて中国語の人称代名詞や再帰代名詞などの指示表現を研究した学生もいます。 以上が、私の指導可能な分野と大学院での指導経験の概要です。ところで、数年前から当研究室への入学希望者が多く、毎年増加傾向にあるため、全員のご希望にお応えすることは難しい状況です。そこで、皆さんがこちらの研究室とのマッチ度を確認していただけるよう、以下の項目を用意しました。

1. 自身の研究テーマに加え、幅広い言語学的素養を身につけたい方

2. 日本語だけでなく、英語で書かれた学術図書や論文を読むことが好きな方

3. 言語現象の記述にとどまらず、その背後にあるメカニズムを理論的に解明することに興味がある方

4. 高度なリサーチスキルと批判的な思考力を活用し、自立して研究を進められる方

5. 学位ではなく、学問に対して真摯な態度と旺盛な知的好奇心をお持ちの方

6. 研究者になるために研究を行うのではなく、研究をするために研究者を目指している方

 これらの項目にできるだけ多く該当する方と、言語研究の魅力を共有できる機会を楽しみにしています。



2023年度に人文学研究科言語文化学専攻には、新たに4名の専任の先生方が着任されました。ご経歴とご専門について紹介していただいています。

表象文化論講座講師 佐髙 春音先生

 2023年4月に着任し、表象文化論講座および中国語部会に所属しております。中国明清時代の通俗小説、特に『水滸伝』という作品を中心に研究を進めています。最も関心があるのは作品の文章表現についてですが、そのほかにも、明清時代における多様な版本展開、それに関わる出版と受容の問題、更には時代・地域・言語・メディアを超えた物語の展開など、様々な側面に興味を持っています。言語文化学専攻は、そんな私のよくばりな研究を応援してくれる、幸せな環境だと感じています。

 中国の俗語に、「若者は『水滸伝』を読むべきではなく、老人は『三国志演義』を読むべきではない」というものがあります。前者については、『水滸伝』に描かれる豪快で奔放な思想や言動が、血気盛んな若者を扇動してしまうことを懸念したものと考えられます。そんなことはつゆ知らず、中学生の私は『水滸伝』と出会ってしまいました。その頃に愛読していたのはジュール・ヴェルヌやロアルド・ダールの作品で、中国の小説には関心がありませんでした。なぜ『水滸伝』を手に取ろうと思ったのか、実のところ、よく覚えていません。ただ、作品を読んだとき、文章の内容を十分に理解できたとは言い難いのですが、「なんだかよくわからない面白さ」を強く感じたことは確かです。高校に上がった後、作品に対する関心はより強くなっていきました。そこで、中国文学専攻のある大学に進むことを決め、学部・大学院ともに『水滸伝』を主要テーマとして研究に取り組み、今に至ります。ある意味では、『水滸伝』の魅力に扇動されてしまったと言えるのかもしれません。

 私の出身は東京です。中国杭州・上海での三年間の留学期間を除いて、長らく関東で暮らしてきました。こちらの生活には慣れましたか、とお声がけいただくこともあります。活気にあふれた大阪の雰囲気が私はとても好きで、よりエネルギッシュな自分でいられる感覚があります。初めて大阪を訪れたのは、博士課程の頃、上海に留学していた時期に、友人とともに蘇州號という船に乗って一時帰国したときのことでした。上海港を出発した後、2泊3日の海上の旅を経てたどり着いたのが、大阪港国際フェリーターミナルでした。私にとって初めての船旅、興奮冷めやらぬまま降り立った、初めての土地。そのまま道頓堀、通天閣、大阪城をめぐり、楽しい時間を過ごしました。定番の観光ルートですが、そのときの私は、観光というよりも、まるで冒険をしているかのような気分で、留学時代の色鮮やかな思い出とともに、強く印象に残っています。唯一残念だったのは、後の予定がつまっていて、かねてから見たいと思っていた太陽の塔を訪れることができなかったことでしょうか。

 いま、大変ありがたいことに、大阪大学の一員として日々を送っています。モノレールに乗れば、太陽の塔もすぐ近く。ここからまた、新しい冒険を続けていくのだという高揚感に包まれています。

第二言語教育学講座講師 金澤 佑先生

 2023年4月に大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻第二言語教育学講座・英語部会、及び、大阪大学マルチリンガル教育センター英語教育推進部会に着任しました。専門は外国語教育学・応用言語学などです。大学院生時代から、認知科学や情動心理学の知見や手法を活用して、記憶の心的メカニズムや効果的な語彙学習の条件を探究してきました。教育実践や認識論の根幹を支える基礎理論研究や実践的探究などに取り組んでいます。

 哲学を含む学際的考察を重視しており、特に初期プラグマティズム(パース・ジェームズ・デューイ)、ベルクソンの生物学的哲学やホワイトヘッドのプロセス哲学などに見られる動的・能動的・有機的で生命的な人間観・発達観・教育観・形而上学に強く関心を持っています。教育に当たっては、チャレンジャーズ・リーディングサークルやP4ELTなどの開発を通して、21世紀型スキルを涵養するためのディープ・アクティブラーニング授業実践を行ってきました。学外では、LET-FMT-SIG部会長として、一般公開例会の開催や大学横断的共同プロジェクトも牽引しています( https://researchmap.jp/yu-kanazawa/goldstream )。

I became a faculty member of the Graduate School of Humanities (Study Field of Second Language Education and the Department of English in the Division of Language and Culture) in April 2023. My main research fields include Foreign Language Education and Applied Linguistics. For my doctoral study, I have investigated the mental mechanism of memory and the conditions of successful vocabulary learning via cognitive scientific and emotional psychological methodology and theories. I have conducted fundamental theoretical studies and practical inquiries, from which pedagogical practices and epistemology are derived. I put value on interdisciplinary academic endeavors and am especially intrigued by the early pragmatism (by C. S. Peirce, W. James, & J. Dewey), the biological philosophy (by H. Bergson), the process philosophy (by A. N. Whitehead), and their active, dynamic, organic, and élan-woven metaphysics and theories on human, development, and education. As for teaching, I have aimed at fostering 21st century skills by developing deep active learning approaches such as Challenger’s Reading Circle and P4ELT, which are my own inventions. I am also leading a large-scale collaborative research project and coordinating the public research meetings at the LET-FMT-SIG ( https://let-kansai-fmt-sig.blogspot.com/ ).

理論言語学・デジタル・ヒューマニティーズ講座講師 鈴木 大介先生

 2023年4月に言語文化学専攻理論言語学・デジタルヒューマニティーズ講座に着任しました鈴木と申します。慌ただしい日々を送るうちに早くも1年が経ちましたが、改めましてどうぞよろしくお願い申し上げます。

 専門は英語学、英語語法文法、英語史です。もともとは英語教員を志していましたが、大学入学以降、英語という言語がもつ奥深い世界や、英文法の歴史を垣間見るなかで自分自身の無知や実力不足を痛感し、人に教えるにはもっともっと自分が勉強しないといけないという思いで大学院へ進学しました。それから現在に至るまで、英語の不思議さや難しさに悪戦苦闘しながらも、その本質や核心に少しでも近づけるよう、日々研究を続けております。

 具体的には、英語の類義語間の関係に着目し、意味が同じとされる表現がどのように使い分けられているのか、またどのように異なるのかという点を解明すべく、ことばの仕組みを研究しています。類義語間の違いには場面や状況といった社会的文脈が密接に関わってきます。より専門的な話をしますと、機能言語学や認知言語学、通時的に史的言語学といった学際的なアプローチにより、また大量の言語資料による実証的な方法論を用いて、英語の言語現象を幅広く考察する学際的な研究を行っています。そのなかで、新しい言語事実の発掘に加えて、これまでに蓄積されてきた知見に新たな見方を提示していくことを目指しています。さらには、通時的な観点から現代英語における変化を捉えることにも比重を置いています。

 大阪大学は、近隣の三田市育ちの私にとって一番近くの国公立大学だったのですが、幼い頃から目標と言うのもおこがましいくらいの、憧れのような存在でした。大学院時代には何度も訪れ、院生の方々と沢山交流をさせていただきましたし、また大いに成長させていただいた場所でもあります。そんな(一方的に)身近に思っていた大学に就職できるとは、私自身全く想像していませんでした。頂いたこのご縁に感謝しながら、大阪大学での教育および研究に少しでも貢献できるよう精一杯努める所存です。着任以降、すでに多くの先生方、職員および関係者の皆さまにお世話になってばかりですが、今後ともご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。

理論言語学・デジタル・ヒューマニティーズ講座講師 ヤン ムイ先生

I am a linguist specializing in a subfield of linguistics known as “formal semantics”. Semantics is the study of the patterns in the meaning of human language – how we combine words into meaningful sentences and understand each other in everyday conversations. The “formal” aspect involves using tools from mathematics and logic (such as set theory, functions and calculus) to establish a model of those patterns. To those without a background in theoretical linguistics, the combination of language and mathematics may sound very unusual. I would’ve found it hard to believe myself if someone were to tell me ten years ago that I would end up pursuing a career that deals with this combination – I had always known that language is my thing, but nobody could’ve convinced me that mathematics would become part of my profession.

I was born and raised in the city of Jinan in North China. Perhaps because of my mother’s interest, we had a lot of DVD sets of classic Hollywood/European epics at home – The Sound of Music, Gone with the Wind, the Sissi trilogy, to name just a few. I watched them over and over, and dreamed of traveling to those countries and talking to those characters myself. With such strong curiosity about foreign cultures, language naturally became my favorite subject at school – at one point I even thought of becoming a simultaneous interpreter (one of the few language-related professions that I knew of back then). I went to college in Australia at the Australian National University. As a typical humanities kid, I took full advantage of the flexibility of my program and had the opportunity of enrolling in classes of sociology, history, politics, philosophy and linguistics. Among these fields, I found linguistics to be the most intuitive subject, and believed that this might be something that I would be good at. After passing my Japanese proficiency test, I decided to go to Japan for a MA degree in linguistics.

My initial encounter with formal semantics happened in my first year at Kyoto University in a class on modality (e.g. expressions like “must”, “can”, “may”) and conditionals (e.g. sentences in the form “if…then…”) taught by Magdalena Kaufmann, who was then on a research visit in Kyoto. I was completely lost most time of the class – I hadn’t touched math a bit since high school, and the mere sight of mathematical symbols was just overwhelming. But for some reason that still remains a mystery to me today (perhaps I was too ashamed that I didn’t understand a thing), I decided to go over the course materials again after the semester was over. The second attempt proved to be successful – after working through all the handouts, exercises and solutions, everything started to make sense and I even wanted to learn more. Eight years later, I finished my PhD study at University of Connecticut, where I was supervised by Magda Kaufmann and submitted a dissertation on Japanese modality and conditionals. Soon after, I was fortunate to join Osaka University as a formal semanticist.

One of my biggest lessons from studying formal semantics is that one doesn’t grow just by doing things that they are good at. Today, I’m still enthusiastic about languages – currently on a 110-day streak of German on Duolingo. But I’ve also become willing to taking up challenges by exploring things that I once thought I would never become interested in – a newbie in statistics this semester, but who knows what’s to come next.